JRA最年長騎手・柴田善臣氏、大穴を勝たせ本命もきっちり!


迫りくる年の瀬へ、駆け込み勝ち鬨だ。2019年12月15日、中山競馬場で開催された第3Rと第4Rはいずれも2歳の未勝利戦だったが、現役騎手会の生き字引である柴田善臣騎手(53歳/東/フリー)はこの2鞍を連勝し、本年の勝ち星数を15に増やしたのである。これで自身のワースト記録である昨年の7勝にはダブルスコアをつけることとなり、一昨年の16勝までは残り1勝に迫った。古豪復活の狼煙が今にも高々と舞い上がりそうで、その火種は着実にあったまってきた模様だ。

晩春と厳冬、同じ差し馬ながら環境は雲泥

さてこの2鞍、上述の通りどちらも2歳未勝利クラスで、共に芝コースでの戦いであったが、各馬の置かれた状況はまさしく正反対であった。第3Rで柴田善騎手が騎乗したネバーゴーンアウト(父ヴィクトワールピサ/鹿戸雄厩舎)は出走十六頭中十二番人気、穴も穴、単勝55.5倍の大穴である。一方、その次の第4Rにおける柴田善騎手の騎乗馬、シングンバズーカ(父シングンオペラ/高市厩舎)は、ここまで4走して2着二回と3着4着が一回ずつという、安定した地力が評価されて単勝2.3倍の一番人気を背負っていたのであった。

柴田善騎手はノーマークの穴馬を老獪な潜伏術で差し抜けさせ、馬単464倍、三連単8625.9倍の大賞与を穴馬券ファンにプレゼントしたその数十分後には、他馬の執拗なマークを退けて馬単6.3倍、三連単19.1倍のガチガチ一番人気決着を披露し、本命党をも虜にしてみせたのである。

いうまでもなく、他のどの騎手も気に留めない状況下で道中を楽々と進んでいくのと、上位人気馬から徹底的に抑え付けられながら、それでも位置取りを死守しつつ勝負どころへと向かうのとでは、自ずと戦略も心境も異なるだろう。柴田善騎手は、のどかで緩慢、春の日差しを浴びるようなコース周回と、鋭い視線に八方から晒された、まさに吹雪舞う中を進軍するようなレース展開の双方を、僅か一時間程度の間に立て続けて経験したのみならず、共に勝ってしまったのだから脱帽するより他ない。まさに周囲の環境に気圧されず、的確に順応して確実に結果を出す、ベテランの味そのものが滲み出た連戦であった。

以下2枚ともJRAの公式動画より。ゴールの瞬間。ゼッケン9番をつけているのがネバーゴーンアウト。鞍上・柴田善。
同じく決勝線に差し掛かる瞬間の柴田善騎手と、ゼッケン4番のシングンバズーカ。四角から外に出しての差し切り、という手段は同じだが、その内実は大いに異なる。

勝たせた馬は、誰の馬?

さて、一ヶ月振りの勝利を振り返るにあたり、やはり少し悲しい事象が生じていることにも触れざるを得ない。柴田善騎手のここ最近の勝利は、サンアップルトン(父ゼンノロブロイ/中野栄厩舎)なしには、引いては黛騎手のお手馬強奪事件なしには語れない。無論、本当のところ事件性など皆無だが、期せずであろうと無かろうと、結果的に干支二周り近くも年下の騎手からお手馬を取り上げることとなってしまったのは、柴田善臣氏が騎手人生を長く続けていくにあたって、誇りにくい影の要素を形成しうるといっても良いだろう。

なぜ上述の既報を蒸し返したかといえば、本日の二勝目もまさしくその通りだったからである。

JRAホームページより。

上掲の表で一目瞭然であるが、好素質馬シングンバズーカは、そもそも武士沢友治騎手(41歳/東/フリー)以外に本番での手綱取りを許していなかったのであった。着順が人気を上回ったのはデビュー戦だけで、以降は三連続で人気を裏切ってしまったものの、大敗なくじっくりと馬を育ててきたベテランの武士沢騎手。現在の心境には思いを馳せるのも忍びない。

JRAホームページより。

伸び悩む黛騎手とは違い、細く長く慎ましく、しかし強かに逞しく騎手人生を歩んできた武士沢騎手。トウショウナイトとの名コンビはファンの間で語り草となっていよう。ここ数年では快速先行馬・マルターズアポジーで重賞戦線を賑わせたいぶし銀の騎手だが、今年は僅か9勝に留まっている。もっとも、年間4勝に終わった年もあるし、20年以上の騎手生活において武士沢騎手が年間20勝を達成したのは2年しかないのだから、今年も絶賛平常運転中といえなくもない。

いずれにせよ、干支一回り下の騎手が手塩にかけて育ててきた筈の2歳馬に、柴田善騎手はサクッと飛び乗ってしまったばかりか、さらには勝ち星を掴み取ってしまったのである。勝利の美酒の、その後味は如何ほどのものだったろうか。

実際のところ騎手会は勝負の世界だし、本人同士もその程度の乗り替わり勝利は日常茶飯事に有り得る事態であるから、なんの問題もないことであろうが、しかしファンの気持ちは冴えまい。武士沢騎手を応援する者は勿論だが、柴田善騎手のファンも、諸手を挙げて万歳三唱とは行かないのではないか。

もっと華麗に、穏便な、恨まれない方法で

今後の解決策、つまり再発防止策は二つある。ひとつには、柴田善騎手も素質ある2歳新馬に出会いお手馬とすること。これはそもそもそういった幸運に巡り合えるかどうかの話だし、そこには馬主だの調教師だの、様々な思惑が絡み合ってくるから現実的には大変難しいのではないだろうか。

いま一つは、柴田善騎手が、自身よりも年間勝利数が多い騎手からお手馬を奪うことに徹することである。こちらもエージェントの手腕や取引が絡んだりでなかなかに難しいだろうが、柴田善騎手にとってはどこをどう見回しても後輩騎手しか存在し得ないのだから、ならばせめて後輩といえども自分より実績の高い騎手の足を引っ張る方が、競馬ファンの溜飲も下がろうものだ。後輩ジョッキーたちも「うかうかしてるとあの爺にやられる」と気持ちが一層引き締まるだろうし、それはレース内容にも現れて、引いては日本競馬界のレベルも向上しようというものだ。

まるで柴田善騎手の行動、匙加減ひとつで競馬の未来が変わるかのようだが、そんな妄想を抱きたくなる勝ちっぷりを見せ付けられた日曜の午前であった。


労働階級からの解放を志し、収入のアテもないのに突然脱サラ。後先考えないその姿勢に後悔しきり。

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