今上天皇陛下の御世における最後のG1が、2019年4月28日、つつがなく開催された。結果は一番人気のフィエールマンがつつがなく勝利を収め、さしたる混乱もなく、平和に幕を閉じた。
ばらんばらんの乱ペース騒ぎ
レースは、ヴォージュの絶対的逃げ宣言に対して大外のロードヴァンドールが畳み掛けてくるであろう、というハイペース展開が予想された通り、最初の800mは47.6秒という、長距離戦としてはかなり速めのタイムで駆け抜けていた。しかし、正面スタンド前を通過する頃には極端にペースを落とし、800m標識から1600mまでは50.7秒、そこから2400m標識までは50.5秒もかかるというスローペース展開に転じたのである。坂を駆け下りると共にさらにペースは変化し、最後の800mは一転して46.2秒であった。つまり、スタートから暫くはヴォージュがロードヴァンドールから逃げに逃げてのハイペース、ロードヴァンドールが2番手に控えて落ち着いてからは極端なスロー、そして三角からは早めのヨーイドン、一斉に全馬がスパートをかけるという、乱高下の激しいレースであった。
長距離G1は全部もらう!
勝った七枠10番のフィエールマンは、出走メンバー中唯一のG1ホルダーであるという実績と権威を厳かに振りかざし、道中では中団、三角から進出を始めると、あれよあれよという間に四角では先頭に並びかけ、直線の入り口では既に先頭、外から追いすがる2着馬には一度も前を譲らず、そのまま凌ぎ切った。さすがは最も強い馬が勝つと謳われた菊花賞馬である。勝負根性に任せた力相撲で見事に押し切ったようにも見える。

調教では「思っていた以上に速い時計をマーク」してしまい、調整過程に若干の不安を感じさせたものの、鞍上が評価していたたとおり「パワフル」な走りを披露し、見事に二つ目のタイトルを手にしたこととなる。
並びかけて並びかけて抜けずとも、大成長の2着確保
調教師をして「ステイヤーとは言えない」というなんとも残念な烙印を押されていた筈の、五枠7番グローリーヴェイズが、六番人気から見事に2着。しかも菊花賞馬であるザ・ステイヤーのフィエールマンと互角に張り合うという無類の根性を見せ付けた。
菊花賞当時は5着、1着馬フィエールマンの二馬身近く後ろでのゴール、時計でも.05秒差であったが、半年経ってここまでその差が詰まるとは、明け4歳馬に秘められた成長力は計り知れないものだ。
乱ペースも甚だしい展開にあって、持ち前の「操縦性の高さ」が他馬より有利に働いたことは想像に難くない。マークしていたフィエールマンにぴったりと沿って上がっていくことができていた。
古馬を舐めるな!老獪な粘り腰
三着には六枠8番のパフォーマプロミス。「G1では結果が出せていなかった」過去を嫌ってか、八番人気という低評価ではあったが、最後の直線では、前走でも見せつけたような内側からのしぶとい粘り腰で4着馬と熾烈な争いを演じ、見事に凌ぎ切った。1、2着馬が新進気鋭の4歳馬であるところ、7歳のパフォーマプロミスは、歴戦の宿敵を代表したかのような、古豪の意地を見せ付けることに成功したのである。

作戦負けか、展開の逆風厳しく
1、2着馬の遥か後方で、全く同じような争いが行われていたわけであるが、4着のエタリオウにとってはかなり屈辱的な結果となった。菊花賞で2着だったエタリオウは、それに倣ってか二番人気。本来は前の二頭に加わっていなければいけない存在であった。
序盤から最後方に鎮座し、追い込み気勢で虎視眈々と前を伺っていたが、極端なスローペースに落ち込んだことから三角の下り坂で急激に進出、前から4、5番手の位置まで迫った。しかしそこで脚を使った所以か、直線では古豪を交わすことすらかなわなかった。騎手は「最後まで集中力を持続でき」ていたようだが、そんなものではこの差はいかんともしがたい。ペース展開の不利をモロに受けてしまった格好だ。
掲示板入りの五英傑のうち、四頭が4歳
三番人気のユーキャンスマイルが5着。菊花賞で3着であった「真面目な」長距離馬が、「真っすぐ走るようにな」って、いよいよとの期待を背負ったが、盾は届かなかった。前走で3400mの長距離重賞を勝っているとはいえ、当時の斤量は54kg、格付もG3だ。今回は58kg背負ってのG1。やや人気しすぎた面があろう。掲示板に乗れたのだから立派なものだ。
前年の菊花賞で1、2、3着だった馬がそれぞれ一、二、三番人気を背負うという、なんとも古参古馬が馬鹿にされたオッズとなったが、終わってみれば3着のパフォーマプロミス以外は全馬が菊花賞の入着馬であった。やはり馬券師の集団意識は賢い。
失意に沈んだ面々
9着以下で大きく人気を裏切ったのが二頭。
四番人気のクリンチャーはなんと10着。昨年の3着とは一体なんだったのかと思うほど影薄く、どこにいるのかもわからないまま、見せ場なく敗れた。「もともと叩き上昇型だけに、使って馬体の張りや毛ヅヤが確実にグンと良くなっている」とは、本当にこの馬のことだったのだろうか。今思い返せば、「毛ヅヤが確実にグンと良く」なる、という日本語がおかしかった。この場合、「確実に」、という形容動詞が入るのなら、「良くなっている」、ハズだよ、という言葉が続きそうなものである。調教師は疑心暗鬼だったのかもしれない。
五番人気のメイショウテッコンも11着であったが、こちらは妥当な結果だろう。前走で武騎手が見せた巧みな逃げっぷりから注目されたのだろうが、まずもって騎手も替わったし、だいたいが前年の菊花賞における14着馬である。力差は歴然だ。日本人騎手として押しも押されもせぬ福永騎手といえど、過剰人気であったと言わざるを得ない。調教師をして「もうひとつ成長すれば強くなる感触はある」と評された本馬の成長が待たれる。
果敢に逃げたヴォージュ
また、スタートから宣言通りに先頭を奪い取り、序盤のハイペースを演出したヴォージュが、レース中に右前浅屈腱不全断裂を発症して後退し、競走を中止した。安楽死処分は課されていないが、不全断裂とくれば、競走能力再生の望みは薄かろう。
もし満足に走れていたら、案外ゴール前まで先団に取り付いていることができたのか、それとも、最下位の12着であったロードヴァンドールと並び、バテにバテて大差のシンガリ負けを競うことになったのか。今となっては想像の甲斐もない話だが、気になるところではある。
G1はこれが初出走であり、競走生活の最後に先陣を切って、しかも一周目とはいえスタンド前で大観衆の声援を受けられたことは、少なくとも本馬を育て上げた関係者にとっては、せめてもの慰みといえるかもしれない。
平成最後の天皇賞は、例年のごとく京都開催であったのにも関わらず、奇しくも、関東勢二頭のワンツー決着となった。令和最初の天皇賞は、こちらも例年通り東京開催となる見込みだが、西の逆襲はあるのだろうか。
