Fの軽重


2019年6月12日開催分の川崎競馬において、発馬機を蹴破ってフライングする馬が二頭も現れた。第7Rのミッキースプリング(牡5/C1)と、第10Rのドリームメダリスト(牝4/B2)である。

多くのパチンカーが羨む程に開きやすい扉

発馬機は、馬が激突して死亡することがないよう、簡単にいえば押すと開くように出来ている。ガチャンと開くが、ガチャリと閉まらないように設計されているのだ。

今回の二頭は共に逃げ馬であり、なるべく前へ、いち早く前へ、という健全かつやる気に満ちた姿勢が仇となり、全馬がゲートに収まる前に飛び出してしまったのであった。ぽつんと孤独に出てしまったことに、馬も違和感を覚えたのだろう。両頭とも数十m後には走るのをやめ、バツが悪そうな素振りでゲートの裏へと戻っていったのが可愛くて可笑しい。

ゲート裏に戻ってくると、ゲート内で待たされている他の馬々に睨まれる。「何してんだよ」とため息混じりに呆れている感じの馬や、「てめぇふざけんなよ」とゲートに押し込められたイライラで発狂寸前の馬、もしくは、フライングそのものに気付かず、「今日は待つの長いなぁ、あ、まだキミ入ってないの?」とぼんやり訝しんでいる馬もいただろう。

さて、再度ゲートに後ろから収まって、正式にスタートである。

惨憺たる結果に、繊細な馬の気性や集中力の妙を思い知らされる

結果、ミッキースプリングは10頭立ての9着、ドリームメダリストは11頭立ての8着と、それぞれ惨敗を喫した。両馬とも再スタートを出遅れることなくキッチリと決めたが、如何せん仕切り直しの影響で心技体のバランスはガタガタになっているのだから、この競走成績は仕方がないだろう。ミッキースプリングは四番人気、ドリームメダリストに至っては堂々たる一番人気を背負ってのものであり、大敗要因のほぼ全てがこのフライングのせいであるといっても過言ではないのではないか。

あのフライングさえ無ければ、と馬券を買ったファンは嘆き、「ふざけんな、出走させないで金返せよ馬鹿やろう」と心無い者は口にするだろうが、しかしこれは仕方のないことだ。放馬して延々と場内を走り回った後ならば、「放馬による疲労が著しい」との理由で競走除外もあり得ただろうが、上述の通り今回の二頭はフライング後わずか数十mで走るのを止めているのである。この程度の差異で競走除外としてしまうなら、返し馬の走破距離や力の入れ具合についても厳密に平等性、公平性を維持せねばならなくなるだろう。

ここは、一種の落馬事故と同じように考えて、度外視して気持ちを切り替えるしかない。つまり、とんでもなく自分の運が悪かったのだ、という諦めが肝要である。

同じFでもボートのFは

しかし、それでも若干、心にしこりが残るように感じるとすれば、それは同じ公営ギャンブルのライバルである、ボートレースにおけるフライングの扱いがあるからではないか。

ボートレースの場合は、フライングがあった時点で選手はレースから離脱する必要があるが、博打屋にとって最も重要なのは、その選手の艇が絡む舟券が全額返還になるということである。つまり、フライングがあっても損はしないのだ。競馬でいう発走前の故障発生と同じ扱いである。

なぜボートのフライングはお金が返ってきて、競馬のフライングは返ってこないのだろう。フライングした時点で競走除外としたって良いのではないか。もちろん売上が下がるのだから良くは無いのだろうが、舟券と馬券の愛好者が、この違いを道徳的に納得するのはなかなかに難しいのである。

新しいフライング制度を考えよう

例えば逆に、ボートレースのフライング制度を変えてみてはどうだろう。フライングをした選手は、その時間の200倍ゴールタイムが遅くなる、というハンデを加えたらどうか。つまり、.01のフライングをしたら、ゴール後に2秒追加し、後続の入線時計と比較して順位が改まる、という制度である。

これは面白そうだ。先手必勝のボート界においては、フライングをする者が続出しそうではあるが、.05のフライングで追加される時間はなんと10秒もあるのである。自分が悠々とゴールした後、ようやく最後のターンマークに差し掛かった2番手の艇が、ゴールインするまでに10秒かかるとは到底考えられないから、フライングのハンディとしては手頃なのではないだろうか。もちろん、非常識なF、即刻帰郷、といった面白い単語のルールは現行と同様に保持し、F休みの制度も維持する。

これでボートにも手を出す競馬ファンは納得するに違いない。持ちペラ制度の廃止という革命的トンデモ制度変更を行った競艇界ならば、いとも簡単に実施へと踏み切れるのではないだろうか。


労働階級からの解放を志し、収入のアテもないのに突然脱サラ。後先考えないその姿勢に後悔しきり。

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