柴田善臣騎手、敗戦記念日に一番人気を背負い勝利。


猛烈な暑さが続く日本列島に、今年も8月15日がやってきた。戦争状態の終結から75年の時が流れ去り、その痕跡や生き証人が加速度的に失われていくなかで、中央競馬界における生き字引、最高齢現役騎手の柴田善臣氏(東/フリー)は、54歳となってから初の勝利を手にし、その存在感を内外に強く印象付けたのだった。

JRAの公式動画より。決勝線。

上位は上位、でも絶対に勝てないあいつ

2020年8月15日、新潟競馬場で発走となった第4R、ダート1800mの3歳未勝利戦。柴田善騎手を初めて鞍上に迎えたアイアムイチリュウ(牡/父ルーラーシップ/奥平雅厩舎)は、その堅実な戦績から、押し出されるように一番人気へと支持された。倍率は3.3倍。二番人気馬が3.8倍、三番人気馬も4.8倍まで推されていたから、馬券師たちから絶対的な信頼を得ていたとは決して見なされ得ぬ状況下であったが、何しろ本馬はこれまで一度も掲示板から漏れることがなかったのだから、決め手に不安があっても期待は大きかったのだろう。

JRAホームページより。アイアムイチリュウの戦績。

過去に二度、一番人気に推され、その全てを裏切ってきたアイアムイチリュウ。しかし、今度の鞍上は押しも押されもせぬ長老騎手だ。柴田善騎手は今年7回一番人気馬に騎乗し、3勝を挙げている。そう記すとまるで今回も負けそうであるが、勝率に直せば.429となり、なかなかに説得力のある数値となっているのだ。

半信半疑の目がそこらじゅうに

さて、ファンに漂う一抹の不安をよそに、レースはスタートした。柴田善騎手とアイアムイチリュウは、無難な発馬から先行策を取る。馬場を一周する新潟ダート1800mの条件にあって、後方や中団に待機して四回もあるコーナーを外から捲っていく等というのは、よほど力のある馬でない限りリスクばかりが大きいから、なるべく前に行って内目内目を回っていけることが好走へと繋がる。そしてアイアムイチリュウに後ろから差して切れる脚が無さそうなことは、その勝ち切れない戦績からも明らかであったから、前から三番手付近で道中を過ごせたことは、まさに理想的な状態であった。

四角から最後の直線へ入り、柴田善騎手は仕掛けて抜け出しを図るが、ここで若干アイアムイチリュウがソラを使う。いわゆるカメラ目線だ。

JRAの公式動画より。画面中央やや左、緑の帽子を被った柴田善騎手を乗せたアイアムイチリュウは、他馬とは違いこちらを見据えているように見える。レースに意識が向いていないようだ。

人気を背負っているのに不真面目な走りをされたのではたまったものではない。柴田善騎手は勢いよく右鞭を振り上げ、アイアムイチリュウを正気に戻すのだった。

JRAの公式動画より。柴田善騎手が右鞭を振るったことにより、他馬と同じように前へと顔を向けるアイアムイチリュウ。

そこからはバテた二番人気馬を尻目に、三番人気馬とのデッドヒートが繰り広げられ、結局これを制したわけだが、三番人気馬の鞍上は二年目の減量騎手であった。齢わずか19である。並走する我らが柴田善騎手より、実に干支三回り近くも年が離れているのであった。

次々と現れる後輩、そしてライバルたち

JRAホームページより。三番人気馬に騎乗していた騎手。

柴田善騎手が2001年の中山牝馬ステークスをエイシンルーデンスで勝ったその翌々日に、彼は生を受けたのである。

netkeiba.comより。

それがゴールまで数百メートルにわたって死闘を演じることが出来るほどの成長を遂げたのだから、時の流れは凄まじいし、結果それを制して勝利した柴田善騎手に至っては、その時流を感じさせない腕っぷしにほとほと頭が下がるばかりであった。

JRAの公式動画より。並走する両者と、置いていかれる逃げ馬及び二番人気馬。

これが本年の11勝目となった柴田善騎手。上掲の通り、19歳の二年目騎手より勝ち星が少ないのが少し寂しいが、それは騎乗回数の差によるもので、勝率としてはほぼ同じだ。

JRAホームページより。

もちろん、三十年以上のキャリアがありながら、二年目の騎手と勝率が同じというのは頂けないという向きもあろう。連対率こそ少し上回っているものの、胸を張れる程ではない。

しかし、本走の騎乗ぶりを見ても明らかなように、他の新人、中堅、ベテラン騎手が悉く勝たせられなかったアイアムイチリュウを、柴田善騎手は見事に1勝クラスへ上げて見せたのだから、その技術は決して騎手成績の数字と比例してはいないのである。昨年の勝利度数16を是非とも上回り、西高東低の続く騎手界で古豪の存在感を醸し出して欲しい。


労働階級からの解放を志し、収入のアテもないのに突然脱サラ。後先考えないその姿勢に後悔しきり。

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