ボートレースに限らず、人々の思惑や信念、情熱が交錯する現場にあっては、望む望まれぬに拘らず、時として天啓、ないしは天罰であるかのような、奇跡的事象が生じることがある。
肩書も戻ったし、生存も叶ったし。
生田選手の引退により、現役東京支部女子レーサーで唯一、元・最年少女子選手の肩書を誇ることが出来る存在となった白石有美選手(B2/26才/118期)は、ことボートレースの選手界隈においてその奇異たる事象の恩恵を、最も受けているレーサーであるといっても過言ではない。

第一の奇跡、まさかの選手枠増加。
まずは上掲の通り、俗にいう選手会からの引退勧告が執行猶予となった為、今春でレーサーとして死を迎えることが間違いないと余命宣告をされていた筈の白石選手は、他力も他力、選手枠の増加という決まり手で生存が決まったことが、一つ目の奇跡だ。勿論、選手会の中では、プレスリリースよりも相当前から噂として囁かれていたものかとは推察するが、しかし、いざ現実となるとその効果は絶大だ。


クビを回避するべく必死にもがいていたのであろう、初の勝率10%台を記録することができた2025年前期(2024.5~2024.10)の白石選手。対して、上掲の記事が出るか出ないかの頃を含む直近、つまり2025年後期(2024.11~2025.4)における彼女の体たらくは相当なものがあり、どこかで気が抜けていたことが容易に想像できる。ただそれが、どうやっても当時の引退勧告ルールに抗えそうにないという、諦観によるものだったのか、はたまた、選手会の施策情報を入手していたことによる楽観が作用していたのかは、部外者は知る由もない。
しかしいずれにせよ、選手としての残留が濃厚となった後の白石選手にとって、このルール変更による効果は絶大であったことは繰り返し明記しておく。何しろその後の成績がとんでもなく劣悪なのである。
少しでも前へ! → 無事是名人 への変遷。
手計算なので諸々ご容赦賜りたいが、具体的に成績を明示すると、本年3月8日付で上掲の記事が出たのを境として、その前に最後の勝利を手にしてからの23走と、同じく記事が出た後の、偶然にも直近の勝利を挙げるまでの23走を比較すると、下記のような結果となる。
★ 記事前 0-1-0-7-7-7+F1 計23走・ボートレース勝率=2.49 最下位率.304
★ 記事後 0-1-1-3-6-11+S1 計23走・ボートレース勝率=2.13 最下位率.478
やはり、成績は下がっている。勝率だけを見れば目糞鼻糞といったところだが、注目すべきは最下位入線の数字で、記事発表前は最下位に甘んじることは三走に一回もなかったのが、発表後は、実に出走すれば二回に一回は最下位ないしは落水すること請け合いとなっているのだ。選手会の決断が、白石選手の敢闘精神に如何様な変化を齎したか、感情的な理解の一助となろう。一応、計算の根拠として使用した艇国データバンクさまの情報を載せておく。

第二の奇跡は、もはや、勝つこと……
10年以上継続していた選手会ルールの突如とした変更という奇跡をものにした白石選手が、のんべんだらりとその後の選手生活を送るなかで、次に手にした奇跡は、突然の勝利であった。
2025年6月23日。ボートレース若松ではG3オールレディースひめちゃん杯の開催が5日目を迎えていた。前日が予選最終日だったわけだが、それまでの白石有選手は、一号艇の利を活かし切れなかった3着が唯一の舟券絡みで、他は4着と5着が1回ずつ、残りは全て最下位入線という、相も変らぬ低速航行ぶりであった。
そんな状況下であるから、五日目の第一レースが下記のようなB級レーサー総進撃といった塩梅の組み合わせでも、上位人気に推されることなどある筈が無く、つまり誰も期待していないのだった。


四号艇を駆る白石選手の内枠三艇は、同期が一名いるものの、全員が地元たる福岡支部の所属選手であり、外の二名も長崎支部所属という九州勢に囲まれた一戦。東京もんの白石選手にお情けをあげる余地など全く無さそうなことも、オッズの上昇に拍車をかける。
唯一の光明としては、三号艇の選手がスタート勘に劣っていそうなことであった。今節の平均スタートタイミングは.31近く、一方ですぐ外の白石選手は.16と、コンマ1以上の差がついており、これはもしかするとカド捲りが決まるかもしれない、と穴党には思わせるに足る材料ではあった。
しかし、その微かな希望の光も、スタート展示の成績によって俄かに遮られるのだった。

上掲の通り、フライングではあったものの、三号艇も他艇と足並みを揃えてしっかりとスタートに踏み込んでおり、一、二号艇も全く引けを取っていない。この状況下では最下位率五割前後を誇る白石選手の出番は今回もなさそうだ。
しかし、奇跡は起こる。特にギャンブルではまま起こる。神か悪魔の悪戯か、人々を魅了してやまないのは、時季を選ばずしてこれが起こってしまうからだろう。
実際のスタートは、展示とは打って変わり、四号艇白石選手にとって絶好の形となった。

なんと、件の三号艇のみならず二号艇までも揃って出遅れるという展開で、この図を見れば、少しでもボートレース予想をかじったことのある者であれば、四号艇有利が明白に悟られる状況である。勿論、いかに白石選手が白石選手であり、他艇よりも5kg程度重いハンデを背負っており、本来競走生命を絶たれる筈だった、悪質な物言いをすれば死にぞこないの存在であったとしても、流石にこの有利はモノに出来た。


実際の映像を見ると白石四号艇の有利はさらに分かり易い。三号艇は二号艇へ著しく接近しており、白石選手にとっては十二分の回りシロが形成されている。これはもう捲ってくださいと水面が声高に叫んでいるようなものだ。

その声が聞こえたかどうかは定かではないが、早々に三号艇を押し込み、そのまま一号艇にツケ回るかたちで一捲りした白石選手。46戦ぶりの勝利は、ここまでの白石選手が如何なるレーサー人生を歩んできたのか全く考慮せずに舟券を検討した人々に大金をもたらすという、まさに観客にとっても奇跡的なものであった。また、一号艇以外で白石選手が勝利したのも約二年ぶりの快挙となり、当時も四号艇で捲ったものであった。
他力と自力、そして奇跡を絶妙な塩梅で混ぜ合わせ、唯我独尊のボートレーサー人生を歩み続ける白石有美選手。次節は七夕の佐賀県。ボートレース唐津でのヴィーナスシリーズである。九州遠征が続くが、久々に味わう勝利の美酒に二週間近く酔いしれたまま、早朝の勝負に突撃となるのか、それとも常識的に一旦都内へ帰宅して安眠してから再び向かうのか、ボートレーサーが夢のある職業だと喧伝するのなら、是非とも九州に留まって贅の限りを尽くして欲しいところではある。
いずれにせよ、この勝利を弾みとして、目下6連敗中である一号艇乗船時での無難な逃げ切りが、非常に現実味を帯びて来たことには留意しておく必要があるだろう。