寒風吹きすさぶなか、大ベテランが気を吐いている。JRAの現役最高齢騎手・柴田善臣氏(53歳/東/フリー)が、先週に引き続いて2歳未勝利クラスで勝ち星を掴み取ったのだ。
コース特性の不利を熟練のコツで乗り切り
2019年12月21日の中山競馬場第1Rは、ダート1200mコースを使用しての2歳戦であった。柴田善騎手が駆るトーアリュウジン(父ウォーターリーグ/藤原辰厩舎)は、一枠1番の七番人気。十六頭立てであったから、下位人気、大穴、といった扱いではなかっただろうが、決して人気馬とは見做されない、中穴的存在であった。
中山ダ1200といえば、発走地点に芝が敷き詰められたコースである。出走馬たちは、芝内回りコースの二角部分を突っ切って、ダートコースの向こう正面に入っていくことになるが、その構造上、外枠の馬が芝部分を多く走ることになるから、一枠1番ともなれば、走れる芝の部分は最も短くなってしまう。一般に日本の競馬界では、スピードの芝、パワーの砂、といった認識が強く、芝コースを長く走れる外枠は、加速区間が長いために先行しやすく、力勝負のダートコースに突入した時に、内枠勢よりもスピードに乗って前へと出ることが可能となるとされる。つまり、外枠の方がスタートダッシュが利き易く、内枠の馬は序盤の段階で馬群後方に飲み込まれてしまう危険性があるのだ。

そして、全体的に小周りで窮屈な戦いを強いられる中山競馬場のダートコースでは、後方からの追い込みは圧倒的不利と断じられており、道中では中団、1200mのような短距離であれば、先行集団でレースを進めるのが定石とされている。
つまり一枠1番の最内枠は、先行有利のコース形態にあって先手を取るのが難しい、という最悪の発馬地点なのであった。
しかし、そこは関東の大ベテラン、東側のコース形態の全てを知り尽くしている柴田善騎手である。好スタートから確実に前をとり、最初の数百mを3~4番手で進めて見せてくれた。


ここから次の勝負どころ即ち最後の直線までの道中戦線は、騎手としては如何に馬を小休憩させるかに神経を使うところだ。特にトーアリュウジンはスタート地点の不利をカバーする為に、他馬よりも若干無理をしていたのだろうから、これが直線の足に影響してしまったら、ズルズルの惨敗すら現実的展開である。また、それが見越されての七番人気であるに相違なかった。
しかし、トーアリュウジンはバテなかった。目に見えない道中の休憩戦争も、柴田善騎手は巧みに乗り切ったのである。その証明として、最後の直線で逃げ馬に追いついたトーアリュウジンは、一番人気を背負っていた相手と壮絶なデッドヒートを繰り広げ、勝ちきって見せてくれた。

ゴール前の200m間はまさしく一騎打ちであった。先頭を奪い合う両雄は、それぞれが人馬一体となって栄光の初勝利を目指していた。人気の差こそあれ、砂上でのやり取りは互角そのものであった。

馬は互角か、人はどうだ?
馬同士は共に経験の浅い同い年の2歳馬であり、ライバルとして相応の勝負を行っていたが、その背中で追い立てる人間たちは好対照の存在であった。かたや日本中央競馬界が誇る最長老にして、押しも推されもせぬ程に落ちぶれた古のG1ジョッキーが鞍上に鎮座していたところ、もう一方では英国競馬界で活躍した弱冠24歳の若い騎士が手綱を握っていたのである。

この騎手は今年の英国リーディングジョッキーであるから、若いながらも実力はトップオブトップクラスなのだろう。一方の柴田善騎手は2019年12月21日現在、日本中央競馬で62番目に勝っている騎手に過ぎない。数字は嘘をつかないとすれば、少なくとも本年における実績差は雲泥のものがあり、実力差としてもある程度の説得力を感じさせる程の隔たりがある。
そんななかでも、柴田善騎手は短期免許で海を渡った若き貴公子と真っ向から競り合い、前に出きって見せたのだから、この人馬に秘められた根性は相当なものなのだろうか。もしくは、柴田善騎手はこの若手騎手よりも五倍ほど長い騎手人生を歩んでいるから、また中山競馬場の騎乗数は数千を超えるだろうから、その経験における差が、両馬の着差にしっかりと表れたのかもしれない。
いずれにせよ、今ノリにノッている外国人騎手を下したことは、柴田善騎手の健在ぶりを内外に大きくアピールするに相応しい画期的な現実である。これで一昨年に並ぶ年間16勝を達成したことにもなり、古豪復活も大いに印象付けされた。今後の騎乗数増に期待がかかる。
お手馬での勝利は久方振り、これが功を奏すか
また、今回めでたく初勝利を収めたトーアリュウジンは、このところ柴田善騎手が経験したいくつかの勝利と異なり、デビュー当時から完全に柴田善騎手のお手馬であったことも大変に喜ばしい。この勝利によって、勝ち星と乗り馬を奪われた後輩騎手はどこにも居ないのである。腕が立つ外来騎手を下した印象も相俟って、多くの馬主たちが、「来年の新馬を任せてみようか」と思ってくれたのではないだろうか。そう願いたいものだ。
