生田波美音選手、水神祭


年内最後の朝日を浴びて、一人の少女が大仕事を成し遂げてきた。2019年12月31日、暴風吹き荒れるボートレース多摩川で一般戦、第35回多摩川カップの第1Rが発走となり、生田波美音選手(17歳/東京/B2/124期)が初勝利を挙げたのだ。これまで舟券絡みのレースは何度かあり、水神祭は時間の問題と見做されてはいたものの、年内に滑り込みとは驚きである。

この日は二回走りで、二走目には周囲の祝福を受けることなく自ら水神祭を敢行する等、寒風吹きすさぶ冬のプールでも生田選手は元気一杯であった。

一般グレードの、最終日の一般戦、しかも第1R、…だが。

記念すべき初勝利のレースを振り返ってみたい。まず出走表からご覧に入れたいが、メンバー構成がなかなか骨太であった。一般戦も一般戦、なにしろ開催最終日の第1Rなわけだから、B2級の女子レーサーが勝利を挙げた相手ともなれば、オールB級レーサー揃い踏みの様相を想像してしまいがちだが、実際のところは並大抵の面子ではなかった。

BOATRACEオフィシャルウェブサイトより。

男子A級レーサーが二人も入っているのだ。しかもうち一人は絶好枠の白いカポック、別の一人はカドからの一撃を狙える青服を纏っている。特に青服の方は、ついこの間までA1級だった、江戸川ないすぅ~で御馴染みの江戸っ子二代目である。

同支部の先輩方が三人も名を連ねていて、静岡支部の女レーサーもA2級東京支部選手の同期、という仲睦まじいメンバー構成という見方も出来ようが、如何せん6枠ともなれば、生田選手を勝たせるための布陣、というわけには行かないだろう。どうやったって八百長を疑われる走りになるし、ここは間違いなく、「今年最後の一般戦、先輩方を勝たせるために空気となるべき後輩」として6号艇に生田選手が配されたのである。

ところで、好枠をA級の先輩方にがっちりと押さえられていた生田選手の近走成績は、相変わらずの負けん気を生かし1周目2マークでダンプを噛ましてもぎ取った2着が一つあるものの、叱られたのかその後はおとなしい限り。.24、.32という自己犠牲の精神溢れる世界平和的スタートからの着外が並んでいた。

つまり、上掲の出走表上で確認できる彼女の唯一無二の強みは、24番モーターの連対率が44.26%もある、ということだけでしかないのだった。

お化けモーターとまでは言えないものの…

ボートレース多摩川の公式HPより。

ちなみに、24号機の実績は上表の通りである。連対率は銅メダルだが、14節中優勝戦出走が5回、うち優勝1回という数字は、トップモーターと比べても遜色がない。出来る子だ。122回走ったら29回も1着になったのだから、生田選手を乗せて5回走った場合も1回は勝ってくれないと割に合わない、と考えれば、今回の初勝利は当然のものであったともいえる。

晦日の一発目、いよいよ発走です。

さて、6号艇に乗り込んだ生田選手は、そのままおとなしく6コース進入を選択、スタートを待った。

BOATRACE BBより。

大時計がビタッと決まった一秒の間に、全艇が正常にスタートしていった。なかでもトップタイミングは生田選手のすぐ内、ベテランが駆る5号艇である。生田選手は.04という数字と経験の差が作り出した強大な壁に阻まれながら、1周目1マークに臨むことになってしまった。

こうなると必然的に選択は差ししかない。幸いにして5号艇は内を絞りに行ったので、6号艇生田選手広大な回りしろ水面を得ることとなる。

一方、スロースタートの内三艇は、2号艇が後手を踏んで中凹みとなっていた。3号艇がここぞとばかりに捲りに行き、2号艇は完全に上位争いから陥落していく。

最初のターンマークで大勢が決するわけですが、

いよいよ1周1マーク、失速する2号艇を華麗に捲ったのが4号艇のA級江戸っ子だった。スタートではカド受け3号艇に.01の僅差ながら抜きん出られたものの、さすがはA級男子、落ち着いた差し構えでターンを迎え、大きく捲る3号艇の内を突くかたちで、2号艇を捲り切ってみせたのだ。

ところで小柄な女子ながら捲りに行った筈の3号艇は、こちらもA2級の1号艇男子から性差の維持とばかりに意地の抵抗を受けた。これにより、図らずも1と3、A級とB級は、男と女のランデブー航行によるカップル成立、そのまま大外のかなたへと旅立つこととなる。5号艇の50歳レーサーは、そのアラフォー男女が撒き散らした愛の白波と航跡に慄かされ、乗り越えることが出来ずにあえなく失速。孤高の一捲りは泡と消えた。

そして我らが6号艇、生田選手である。眼前では3と4に捲られて瀕死状態の黒いカポックがもがいているが、ここのさらに内の進路を選択、ターンマーク付近をスルッと差し抜けてみせた。そして、さすがは好モーター、そのまま捲り加減に膨らんでいた4号艇までも捕らえ切った。それも、内から舳先がかかりそう、というような生半可なものではなく、完全に横並び、もはや前に抜きん出んばかりの状態である。

ただでさえ内を陣取っているところ、並走まで持ち込んでいれば、当然に2マークでは体勢有利、一番早くホームストレッチへと突入するところであった。

白石有美先輩のトラウマ、1周目2マーク

しかし相手は5年連続でA級の立場を維持している、言うなれば名実共にしっかりとしたA級レーサーである。並走のままツケマイを決めてやろうと虎視眈々、生田選手にビタッと張り付いたまま旋回姿勢に入る。よもや大層綺麗なツケ捲りが決まるのではないか、と大穴舟券ファンは固唾を呑んだに違いない。

ここで勝負の女神が生田選手に微笑んだ。4号艇の江戸っ子は生田選手に気を取られすぎたのか、足元の水面との折り合いがつかなくなり、ツケマイの敢行どころか、バランスを崩して艇をバタつかせながら外に膨らんでしまったのである。生田選手の鋭いターンに付いていけなかったというよりは、何か超人的な力がその場で働いたかのような失速であった。

かくして、生田選手は単独の先頭航走、残り2周をウィニングランとしてきっちり走り切り、決勝線へ飛び込んだ。感無量の旋回を長く味わうことが出来たという、完膚なきまでの見事な勝利であった。

勝因は、モーターと、運と、愛しさと切なさと…

今回の勝利は、モーター性能と勝利の女神に助けられたことは間違いないにしろ、差しの判断、2マーク旋回の引き締まった進路取り、ともにデビューから一年未満の選手とは思えぬ的確さが功を奏したものであった。大外から、しかもA級男子レーサー二人を引き連れての勝ち星ともなれば、並々ならぬ価値があろう。将来性に期待大だ。これから人気が上昇し、配当金もどんどん安くなるに違いない。

なお、上述のとおり本日は二回走りだったが、生田選手は二走目に1周1マークでキャビッた3号艇の真後ろへ突っ込んで転覆。たった一人の水神祭を、救助艇が来るまで存分に楽しんだことも付記しておかねばなるまい。何度か引っくり返ってはいるから慣れっ子だとは思うが、人気が出てくるということは、それだけ毎回しっかり舟券に絡んで欲しいというファンの願いがどんどん強まってくるということであり、徒に入水していくのは決して宜しくは無い。溢れる敢闘精神と共に、充分な完走精神も、今後は養ってもらいたい。


労働階級からの解放を志し、収入のアテもないのに突然脱サラ。後先考えないその姿勢に後悔しきり。

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