完全に何かを掴んだようだ。昨年の大晦日にプロ初勝利の水神祭を挙げ、つい先日に今年の初白星を手にしたばかりの生田波美音選手(17歳/B2/東京)が、節間最終日となる本日、またもや勝利をもぎ取って開催を締めくくったのである。三連単は十万舟券の大台を突破する大波乱であった。
驚きの準優出と、やっぱりの大転覆
2020年2月22日、ボートレース尼崎において「特別ヴィーナスシリーズ第4戦 UCCカップ」(一般)の節間最終日が滞りなく開催された。生田選手は今節の2日目第2Rで、大外からの差しをなんとか届かせて勝ち星を挙げており、節間成績は以下の通りであった。

準優勝戦での大転覆はご愛敬として、出走9回中、1着1回、2着1回、3着2回とは中堅どころとしてなかなかの成績である。とてもB2級選手の数字ではない。今節開催では6走目までの成績で準優勝戦への出場権を争うわけだが、初勝利後の3走目終了時点では優出圏外と見做されていた生田選手。ところが翌日以降の全レースで舟券に絡むという予想外の大奮闘によって、上位18人の中に滑り込み、自身初の準優出を決めてしまった。
当該競走では5コースからの大まくりをぶちかまそうとして、誰のせいでもなく自分の不手際で転覆したが、これは仕方がない。何しろ生田選手の全2勝は全て差しによるもので、捲りを試みること自体がまずないのだった。

しかし、そこそこの好モーターを積んで上表のように好スタートを切ったとなれば、伸の良さから捲りに行きたくなるのも当然である。思い切って無理して大失敗となったわけだが、これで当面の課題が見えたといえるし、F休み中のトレーニングについても方向性が決まってこようというものだ。良い経験であったに違いない。
今節の2勝目はやや骨太な面子
さて、二回走りであった最終日の二走目、第6Rでの勝利について振り返りたい。出走メンバーは下表のとおりであった。

生田選手を含め準優勝戦の敗者が四人もいるというハイレベルの一戦。中でも抜きんでているのはもちろん、準優まで9戦6勝、オール三連対のミスF3こと平高奈菜選手(32歳/A1/香川)である。ついこの前までG1戦線を走り回っていた女傑だが、弘法も筆の誤り、準優勝戦の1号艇でまさかの転覆。それも好スタートで1コースから飛び出してすぐ、1周目1マーク手前の何もないところで引っ繰り返って後続艇を巻き込む、という大変危険なことをやらかしてしまい、この一般戦にまわってきのだった。ここは禊の一戦、悔しさや情けなさ、ほんの少しはあるであろう舟券ファンへの申し訳なさ等、全てぶちまける大勝利が期待されていた。三連単の一番人気は、3-1-4の5.5倍であり、その期待が如実に反映されていた。生田選手アタマの舟券は、当たり前のように全万舟であった。

発走直後はガッチガチの様相を呈していたが…

レースの進入隊形は枠なり、そしてスタートも上の通りで、極めて平穏であった。数字上は.26という酷いものであったが、他艇を率いてのトップスタートを決めた平高選手がまくっての3-14-9、といった決着を想起したものは多かったろう。
ところがである。平高選手より.06秒も遅いスタートとなった1号艇だったが、操舵する選手は腐ってもA級、準優出するほど好調なだけはあった。平高選手の捲りがやや流れたことへ付け込むように、内側から張って回り、向こう正面へ出る頃には半艇身以上も前へ出ることに成功したのである。



捲る艇に捲られる艇が負けじと頑張った場合、漁夫の利よろしくスパッと内から好位置をかっぱらっていくのは差してきた艇である。上掲の通り、ここでは4号艇のベテラン準優出選手が入り込んできた。平高選手の勝利を信じた誰もが大きく落胆したところだが、実はこの画像の下で見切れてしまった部分では、ベテラン選手のさらに内を差してきた伏兵がいたのだった。もちろん、我らが生田波美音選手である。

上掲の画像は、バックストレッチの半分を過ぎたあたりの瞬間である。3号艇と4号艇、二艇に捲られたはずの2号艇が粘り切っているのも興味深いところではあるが、それはさておき、生田選手が自信をもって放てる精一杯の一撃、差しハンドルがしっかり決まっている。第1ターンマークを過ぎた直後では、4号艇の捲り差しが入ったように見えたものの、そのさらに内側で2号艇の舳先がしぶとく差さっており、そしてその2号艇には、さらさらさらにとばかり、生田5号艇の舳先がギリギリ食い込んでいるのだ。
この状況はつまり、次のターンマークを迎えるにあたって、5号艇生田選手が最内の1コースに入り、断然人気の3号艇平高選手は最も不利な大外6コース進入となったということを指している。ここから想定される今後の展開に思いを馳せた時、本命党は神も仏も信じられぬ心持ちに至っただろうし、大穴舟券ファンは夢を描いて大きな固唾を飲んだことだろう。あとは、生田選手が無事に先取って旋回態勢に入り、握って、大きく張って回れるかどうか、というところに尽きる。

既に結果を知っている我々は、生田選手が無事に一番手で回ったと思いがちだが、実際は遅れ気味であった。上掲の画像は、画面右下の生田選手が、お尻を上げては臀部を下ろし、ハンドルを回そうとした瞬間である。左上部に固まる外の三艇は選手が中腰姿勢に近く、上げ下ろしの体重移動をしている最中と見えるが、生田選手の隣、二度の捲られにもめげずに渋太く粘った隣の2号艇選手は、既にその動作を終えていたのである。
つまり、1周目2マークの旋回は2号艇のB級選手が先取ってしまったのだった。

こうなると上掲の通り、先に回った2号艇は内を封じ、後れを取った5号艇と生田選手の行き場をなくさせて自身の引き波に飲ませようと動くことになる。後方では1号艇が差し態勢であるから、なんとしてもきっちりと内側を締め込みたいところであった。
しかし、2号艇の選手はB級であるというだけではないのだ。準優出メンバーが四人も揃っていた本走において、残る予選落ちレーサー二人のうちの一人だった本選手は、今節に限って断じれば生田選手よりも格下とさえいえる地位にあった。そのターンはやや外へと流れていったのだった。

こうして、生田選手は前を行く2号艇に旋回行動で先を越されたのにも関わらず、行き場を失うことも、引き波に飲み込まれることもなく、無事にターンスピードを保ったまま、スタンド前へ滑り込んできた。ここで初めてトップに立ったのである。しかし、さらに内を、準優勝戦で共にスタートを切ったベテラン選手と4号艇が差してきたのだから、まだ全く安心できない。何しろその差は上掲の通り、一艇身程しかないのだった。
東京支部が誇る大先輩熟女との闘い
まもなく2周目へと突入し、第1ターンマークが迫ってくるが、ここでも生田選手は後手を踏む。今度は生田選手が外、対する4号艇熟女が内、という状況下であるから、生田選手は針路を左へ、内へと絞りに絞って4号艇の旋回自由度を奪うべきであったが、それがなかなかうまくいかない。
出走表の通りであるが、4号艇のベテランはかつてのA1級レーサー、中里優子選手(47歳/B1/東京)であ。G1級レースに幾度となく出走し、並み居る強豪を退けての優出経験もある。もちろんG3級では何度となく優出しており、優勝も一度や二度の出来事ではない。
そんな英傑が、生田選手と同じ東京支部に所属し、準優戦に続いて今も同じレースに出ていて、そして年は20も離れているのだった。これで内を絞れるのかといえば、江戸時代から儒教概念を強く植え付けられていた日本人には、難しいとしか言いようがないだろう。

そうこうしているうちに第1ターンマークが迫り、当然のようにベテラン中里選手が先回り態勢に入った。生田選手は、内外の違いはあれど、またも後れを取ってしまったのである。内を圧迫することもできず、ターンでも先手をとられる。外野からすれば、どれだけ先輩に気を使っているのかと呆れるほどだが、ここからが見事であった。
2周目1マークが本走勝利の肝




準優勝戦で人々にこびりついた生田選手のイメージは、差しは得意だが捲りはてんでダメ、といったところだろうが、この2周目1マークでその印象は大いに薄らいだのではないだろうか。生田選手は、経験豊富の元A1級選手を握って包み込む、という劇的なターンテクニックを披露してくれたのである。
ここから少女の逃亡劇が始まる。追いすがる熟女から必死の逃避行を続ける生田少女は、残る三回のターンをきっちりと危なげなく回りきり、節間二つ目の勝利を挙げたのだった。
こりゃ内枠来たら結構な花が咲くかもねん
これまで差し一辺倒で勝ち星を掴み取って来た生田選手。本走がプロ初の「抜き」勝ちとなった。決まり手こそ抜きだが、実際の決め手は上述の通り、先に回った艇を握って捲ったものであり、握りマイも安定しつつあることが確かに見受けられる。近いうちに「まくり」での勝利も見られるのではないだろうか。次節は3月7日から、ボートレース平和島での一般戦に出場の予定である。
