2022年3月5日。春うららかな晴天に恵まれたボートーレース戸田では、ヴィーナスシリーズ第22戦・第55回日刊スポーツ杯の開催最終日が恙無く執り行われた。初優出に向けて予選を好成績で突破したものの、準優勝戦を最下位入線し、今節も一般戦に回って来た生田波美音選手(19歳/B1/東京/124期)は、その一走目である第7Rで早くも鬱憤を晴らした。
パン戦らしい面子だが…

オールB級、しかもB2級が二名という一見して小粒の一戦。しかし、一号艇の選手は今節三勝、生田選手とは別の準優勝戦へ駒を進め、惜しくも夢破れてこのレースへ回された好調選手であり、六号艇の選手は生田選手と同じく今節二勝を挙げ、三号艇、四号艇の選手も節間に一着実績が一つずつあるから、橋にも棒にも、という面々ではない。ただ一人、五号艇の若手選手を除いては。
一枚も、二枚も落ちる、五号艇
若手といっても年齢は生田選手より一歳上となるこの選手は、昨年デビューしたばかり。ここまで93回レースに参加したが、未だ勝利を掴み取ったことがない。いや、未だ、とは少し大げさであったか。何しろ女子レーサーの未勝利連敗記録は、東京支部が誇る現役大横綱、白石有美選手(23歳/B2/118期)が保持する491走という途方もない数字がある。しかし、プロのレーサーになってもうすぐ一年、ぐるりと四季を一回りすることを思えば、本人としては焦りの気持ちも出てこようというものだ。
ねだるな、勝ちとれ。無理だけど。
当然のように一号艇が人気を集め、発走となるわけだが、ボートレースに限らず、賭け事の魅力とは、確率や推理推測を越え、妄想や夢想すら超えたところにある奇跡が生ずることにある。

トップスタートは、なんとその五号艇であった。一号艇も数字上は同じタイミングであったが、実際の映像を見ればその優劣は一目瞭然だ。

追い風気配もなんのその、中枠が凹んだことも相俟って絶好機となったのである。


差すか捲るか捲り差すか。ここは、凹んだ二艇分の利をそのまま生かしての大捲りを選択した二年目選手。見事に準優出選手を飲み込んで向こう正面へ一番乗りだ。黒服二号艇の生田選手は、引き波を越えて差し足を伸ばしてくるが、上掲の通り、勢いの差は歴然としている、かのように見える。
世の厳しさを教えるにはまだ若すぎると思うが……
ここから、年下の先輩による鬼の扱き、地獄の追い回しが始まるのだった。まず、最初の2マークである。

この差しは届かないが、赤服三号艇を抑え込む鋭い意思と併せて、決して逃がしはしないという黄色い選手への強い圧力が込められているような捌きっぷりであった。二周目に入っていくが、この圧を、力強い圧を、二年目の二十歳はあと四回も受け止めなければならないのだ。





背後から迫りくる長身の先輩。一つ年下とはいえ不気味で空恐ろしかったことだろう。二周を終えるまでは、バランスを保てなくなる程に自分の旋回リズムを見失いつつも、なんとかしのぎ切った若手選手だが、ターンマーク誤認なのか気が緩んだのか、直前のフラつきが精神的恐怖を惹起したのか、最終周の1マークで緩やかに大味な旋回を披露してしまい、万事休す。差し、差し、差しの連続で追い回していた生田選手が、内側のぽっかり空いたこの機を逃す筈がなく、きっちりと差し抜けてくる。

向こう正面では上掲の通り。若手待望の初勝利水神祭は、非現実的なものとなった。

上下二枚ともBOATRACE BBより。

最終ターンマークの攻防は、追いすがる立場からなんとか首位の座を取り戻そうと、決死の捲り旋回を試みた五号艇の若手選手が、儚く水面に散っていった。大事には至らなかったが、もし後続艇がもう数艇身迫っていたら、と考えるとかなり危険な行為ではあった。
生田選手らしい走り。この先も維持できるか。
こうして、生田選手はまたも優出をのがしたものの、節間三勝を達成した。後輩選手にとっては口惜しさも一入であり、阻んだ生田選手自身が初勝利を挙げるまでにこなした敗戦数は68に過ぎなかったから、もう少し温情があっても、と感ずる輩もいることだろう。しかし、これが勝負事の習わしであり、プロの世界で生ずべき事象なのである。また、先輩に気を使って譲ることをしない生田選手が、他支部の後輩に花を持たせてやるわけがないのだった。
さて、優出は逃したものの、これが今年の9勝目となった生田選手。昨年は8個勝つのに丸々一年かかったというのに、今年はその四分の一にも満たない日数で同じ数を越える勝ち星を稼いだ。この調子が維持できれば、A級への道も早々に開けていこうというものだ。次節は3月16日から。ボートレース三国の一般戦「坂井市制16周年記念」への斡旋予定となっている。抽選次第ではあろうが、次こそ優出なるか、期待は尽きない。