今度こそ、との燃え盛る決意さえも伺わせる程の、久しぶりかつ見事な快勝発進だ。四月に地元、多摩川で三勝を挙げて以来、二節続けて勝ち星を挙げることが出来ず、そればかりか、他二梃を引き連れての大いなる勇み足でその日のうちに山口県を追い出されたりと散々であった、元・最年少女子レーサーの生田波美音選手(19歳/B1/東京/124期)である。
生田波美音コンマ13、筒井美琴コンマ09の非常識フライングで即日帰郷/下関(日刊スポーツ)
河童なの?パイナップルなの?なんなの?
2022年5月下旬、ボートレース若松では、ヴィーナスシリーズ第4戦「マクール杯ナイトプリンセスカップ」が絶賛開催中であった。前述のFのみならず、一号艇に乗せて貰っても四戦全敗と、ここのところ全く精彩を欠いていた生田選手だが、今節では初日から好発進。いきなり一号艇を配した主催者の期待にバッチリ応えてしっかりと逃げ切り、翌日の一走目も二号艇をきっちりと操舵して2着を確保した。二走目は4カド戦も、特選と謡われたレースだけあり、A級選手を凌ぎ切れず5着入線となってしまったが、まずまずの好成績ではある。
四月の頭までは4節連続で勝利を挙げ、昨年の勝ち星数を既に上回る活躍を見せていた生田選手は、非常識と揶揄される事件にも、一号艇での大転覆にも決して挫けぬ強い心、堅い意思でもって、早速の復調気配にあるといっていいのではないか。
露骨に組んだなエイトビート。
そして三日目の一回走り。2022年5月25日にも生田選手の激走があったわけだが、しかし、その出走表は下記の通りで、一見して勝ち筋が浮かばない面子構成なのであった。

内側三艇にA級、外三艇がB級、という大変に分かり易い構成で、更に一、二号艇にはA1級選手が配されているという盤石さである。流石にこれは内三艇の争いになると、多くの舟券師達が予想したことだろう。その思慮がオッズへも如実に反映されていた。

一番人気は当然のように1-2-3。それも4.5倍という低倍率であった。二番人気が1-3-2の7.8倍、三番人気も2-1-3の7.9倍に過ぎず、内三艇だけの運動会、といった塩梅だ。四番人気が1-2-5の9.5倍で、生田選手絡みの舟券が早速に出現するあたり、舟券師たちの欲と読みを感じさせるが、それもその筈、外の三艇は生田選手以外はボートレース勝率2点台のB2級選手なのだから、酔狂な大穴狙いでもしなければ手など出しようがないのだ。だからA級選手たちの争いに紛れ込めるとすれば、生田選手がその筆頭格だし、彼女以外には考えにくいのである。2-1-5が15倍、1-3-5が15.5倍と、生田選手が3着にまで辿り着けると読まれた舟券はそこそこの低倍率をつけてはいるものの、やはり基本のキたる1-2-3が5倍を切っている事実は無視し難い。順当決着が容易に想像された一戦であった。
待機行動って本当によくわからん……
十四万舟が叩き出された当時もそうだが、本当に、事実は小説よりも奇なるものであって、ボートレースは何が起こるかわからないし、なんだって起こり得る。発走から早速、嵐の予感が舟券師たちの脳裏に走った。ピット離れで二号艇のA1選手が後手を踏んだのである。


ここまで遅れてしまうと、もはや外を回るしか道はない。下に掲げた通り、当該のA1選手も大外へ向かわされる。スタート展示ではもちろん枠なり進入だったから、舟券師たちの心は激しく揺さぶられたことだろう。4.5倍、ガチガチの1-2-3は、この瞬間、1-2-6を買ったことと全くの同義なのだ。いくらA1選手だろうと、所詮は女子、しかもボートレース勝率5.98という、A1でございと見得を切るには値し難い力量の選手が、6コースから無事に3着へと滑り込めるものなのだろうか。涙さえ浮かべる本命党も現れたのではないか。

しかし、ここで不思議なことが起こった。二号艇の選手が、ファン達の熱い思いに応えようと2コースの奪取を試みる、ここまでは至極当然の出来事だが、その無様かつ必要で必死な試みを、他の誰もが、全く防ごうとしなかったのである。


女子同士の待機行動中に広がる、まったりとした優しい世界。出遅れた39歳に対して、その干支一回り以上年長である三号艇の老婆は、大らかな赦しを与えているかのように波間を漂っていたのだった。
そう見ると、その外枠たる年少者たち、ましてやB級選手たちともなれば、妨害しようにもさぞかし身動きし難かっただろうことが、容易に想像できる。お局さんは怖い。自分が後輩に与えた挽回のチャンスを、更にチャランポランな若造が、無遠慮よろしくフイにして良いはずがないではないか。その報いは、出る杭が打たれるなんて程度じゃ済まされないような落とし前であり、場所だってレース場の内外を問わないだろう。老獪な頭脳をもってすれば、長期に渡って繰り返される陰湿な仕打ちはいくらでも思いつくだろうし、それは英仏の如く百年続くことだって無きにしもないのだ。
かくして、上掲の出遅れをもってしても、極めて平和的な枠なり三対三のコース進入が完成されたのだった。本命を熱く厚く買う舟券師たちは、大いに胸を撫でおろすところであるが、しかし、遅れた挙句に温情で入れて貰った当事者の精神状態は、決して平穏ではなかったことに、どれだけの本命党が思いを馳せることが出来ただろうか。二号艇選手が抱えこんでいた実際のお気持ちは、ほどなく、そのスタートを持って大層えげつなく表現された。
「おぇえぇえええ!?」という客たちの喘ぎが……


なんと.37のドカ遅れ、トップスタートの六号艇との差は実に.28も生じてしまったのだ。隣接する一号艇、三号艇も引きずられるように後手を踏んだかたちとなり、向かい風の水面だったこともあってダッシュ勢の絶好機となった。
すぐ内の艇と.10も差があるスタートの利を活かし切ろうと、四号艇のB2級選手が果敢に三号艇のベテランをを圧迫し、内三艇を押し込めにかかる。

そうなると、五号艇生田選手は本来の四号艇が辿りそうな水面まで広く自由に使えることとなるから、すかさずそのまま捲り一閃。四号艇選手への大きな恩義と共に全てを引き波に沈めていく。


あとは上掲の通り、抵抗しようと張り込んでくるA1選手の一号艇までしっかりと飲み込んで、無事に勝ち星を掴み取ったのだった。四月の多摩川でも生田選手は五号艇からの捲りで勝負を決めているが、今回のスリットはよりメリハリが目立つ、つまり一層ダイナミックな状況下となっていたから、走りやすかったのではないだろうか。
トップスタートは六号艇だったのだが、すぐ内の生田選手より.03だけ前に出ていたに過ぎないから、差しの選択は妥当だったろう。上掲画像では遅れを取っているように見えるが、この差し足が綺麗に入って見事に3着入線を果たしている。面白いことに、二号艇はスタート後れを素直に受け止めて安全に小回り旋回した結果、生田選手の引き波に直接はまらなかったこともあって2着を確保しているのだった。ボートレースは不思議な魅力に満ちているとつくづく感心させられる。三連単5-2-6はもちろん荒れに荒れての425.3倍であった。
いよいよ晴れ舞台があるか?
まだ予選最終日を残しているが、三日目終了時点で生田選手の得点率は8.00。順位にして第7位に付けており、大きなヘマが無ければ準優出は確実ではないだろうか。

かつては一勝も挙げずに準優出した経験もある生田選手だが、正念場はここからである。慎重かつ大胆に、安全かつ勇猛に、他の誰よりも速く三周することを、ファンは望んでやまない。