デビューから早七年。アイドルグループの嵐に会う為、という17歳女子らしい若さと幼さとお花畑間隔を脳髄から溢れさせてボートレース界に飛び込んできた無知かつ無垢な少女、白石有美選手(現24歳/B2/118期/東京)が、なんと外目からの捲り差しという玄人技を見せてくれた。感涙である。
地震と津波が生んだ汽水湖で
2023年7月3日。梅雨はまだ明けていないというのに日本列島の各地で摂氏30度を超え、真夏日だなんだ、やれ水分補給だと、人々を右往左往させているなか、ボートレース浜名湖ではG3オールレディース「ハマナ娘クルーカップ」が開催の五日目を迎えていた。多くの舟券師たちが、「クールカップ」と読み間違ったであろう位に、このところの暑さは厳しいものがあったし、涼を求めて彷徨う舟券購入者に「ハマナ娘」の字面をにこやかに迎える心持ち等ある筈もない、とは少しも書きすぎではないだろう。
そんな中で二回走りの白石有選手は、なんと50.1kgという男子以下の体重表記と共に出走表で紹介されていたのだった。163cmというやや高めな身長、を言い訳とするには余りに質量のある体重を引っ提げ、初勝利まで五年以上かかってしまったその体たらくから、舟券師の誰もがレーサーとしては長くもたないと思っていたことだろう。しかし、ここ数年で白石有選手の実力は着実に向上し、尚且つ最大の注目ポイントにして弱点であった体重も、日に日にまともなレーサーの数値へと落ち着いてきているのである。
前日までの節間成績は2着一回、4着二回、5着二回、6着一回と、決して出来の良いものではないが、二年前までの「6着が当たり前でたまに4着があります」といったフザケタ状況からは一線を画している。確かに前日は一号艇に配されたものの6着、本日の一走目も5着と、お世辞にも立派なレーサーだとは述べられないが、かつての連敗大女王の面影は、だいぶ薄くなってきてはいるのだ。
これぞ博打。腕がなくとも波乱は起こせる
そして、勝つこととなる本日二走目。出走メンバーは下表のようになった。

オールB級の一戦であるが、何よりも注目はその体重差で、白石有選手よりも重い選手がいる。競馬の騎手と同じような体重であったかつての彼女を知る我々からすると、天変地異に遭遇した感が拭えない。尚、この現象は今節の別レースでも生じており、本邦初の出来事ではないことを付記しておく。
全員が下位レーサー、という取り合わせにあって、比較的好調の波に乗っているのはやはり地元の選手で、それぞれ一号艇と六号艇に乗船している。両者とも勝ち星こそないものの、出走回数の実に半分以上で舟券に絡んでいる。しかし、一号艇のベテランこそ開催初日に2着に甘んじたリベンジがあるかと安易に想起されるが、六号艇はさすがに遠く、2着として信頼をおくに足る選手は不在といってよかった。

いずれにせよ、実働七年で通算4勝、うちダッシュ戦からの勝利は0個という白石有選手が五号艇に配された時点で、彼女の勝利は無さそうだと、多くの舟券ファンは冷静に判断したであろうことは、想像に難くない。彼女を1着軸とした三連単は当然の如く全万舟だ。
しかし、どんぐりの背比べ、技術、根性、全ての実力が800位を下回るB級レーサー陣ならではの、摩訶不思議な番狂わせが炸裂するのがボートレースの醍醐味である。白石有選手は、.07のトップタイミングでスタートを切り、.03秒遅れた四号艇をターンマーク付近で捲り切り、差しが甘く外に流れてしまった高体重二号艇の内を鋭く差し抜け、見事に勝利を収めたのだった。






上掲画像の通り、華麗な捲り差しとなって、白石有選手はようやく八年目のレーサーらしくなった、といったところだが、出色だったのはバックストレッチである。これまでの彼女は、その体重が艇を深く沈める為、レバーを握ろうがモーターを回そうが直線で伸びを欠き、競り負けるのが通例であった。ところが今回の並走相手は二号艇、その操舵手は53.9kgというのだから、50.1kgの連敗女帝としては痩せた甲斐があったというもの。この競り勝ちは彼女に大いなる達成感をもたらしたに違いない。まさに結果にコミットである。
結果といえば三連単は当然の二万舟券。この倍率もこれから徐々に下がっていくのだろうか。今日のような白石有選手が継続して見られるようなら、その未来も訪れることがあるだろう。
勝って兜の緒を締めよ、本当はだいぶ前に。
それでも、ボートレーサーとしての熾烈な生存競争にさらされて久しい白石有選手は、前回の勝利以降、つまり2024年前期適用成績については、2023年7月3日開催終了時点でボートレース勝率3.40となっており、依然として新陳代謝の際に垢としてそぎ落とされ得る点数に甘んじている。

これは今回の勝利を含めてのもので、生き残りへの道はまだまだ厳しいことを再認識させてくれる。だが万に一つ、来年以降に誰一人としてボートレーサーにならなければ、レーサーとして大手を振って歩ける状態にまで成績が向上していることは、評価せねばならぬだろう。
即ち、1600人を超える数のレーサーが巷で溢れかえった場合に成績下位から切り落としていく、所謂代謝制度では、ボートレース勝率3.80未満なのでリストラ対象だが、半年の斡旋が停止される「選手あっせん保留基準第8号」に抵触するボートレース勝率3.00は突破出来たのだ。
2025年以降もボートレーサー白石有美を拝める可能性が俄然高まってきた。