猛暑である。酷暑でもある。心が、体が水を求めてやまぬなか、絶対に飲みたくない水といえば、東京都23区内を流れる河川のそれであるがしかし、忌み嫌われがちな都会の生水を好いてやまぬ若き乙女もいる。このほど誕生日を迎え25歳となった、元・最年少重量級女子ボートレーサー、白石有美選手(B2/東京/118期)である。女子における未勝利連敗記録の保持者として、まさに女王たる貫禄をもつに相応しい、アラサー世代への突入であった。
軽量レーサー達の要害にして、重量レーサー達の天国
白石有選手、そしてそのファン達待望初勝利は、世界で唯一の、河川を使用したボートレース場であるボートレース江戸川にて達成された。潮の満ち引きと風向きと、川の流れが独特かつ破天荒な水面を出現させ、レーサー達を翻弄する江戸川、正確には中川放水路であるが、それだけに、スピードレースで劣る為に普段虐げられがちな体の重い選手が、舟の安定性において利を有する為に、むしろ脚光を浴びることとなる。白石有選手は当時、その利を活かし切って、さらには地元支部の声なき応援やお膳立て、下駄穿かせを得て、なんとかデビュー以来500連敗という大台に到達することなく、やっとこさひいひいの、嬉しい初勝利を挙げることが出来たのだった。彼女はその後も本場を得意とし、全場で唯一の複数勝利を挙げているのが、中川放水路もといボートレース江戸川なのである。
最近マジ痩せた。凄く痩せた。なんなら青白い。
様々な後押しがあって、なんとかやっていけている印象の白石有選手だが、このところ非常に頑張れていて、成績も向上していることは既に書いた。60kgに迫る勢いであった体重も、男子並み、いやそれよりも軽く、時には49kg台でレースに顔を出すことも珍しくなくなったのである。しかしてそれでも、他の女子連中よりはやや重い。何しろ47.0kgが出走最低体重とされているのだ。50kgを切るか切らないかでは、まだ重い部類に入る。
得意の江戸川で好モーター、白石有選手の活躍は?
重い者に幸を齎すボートレース江戸川で、2023年7月27日から開催されている一般戦、稲城ペダリオン賞・第48回スポーツニッポン杯に、白石有選手は優出歴のある比較的優秀なモーターを引き当てて参戦していた。前節はボートレース大村でのG3シリーズだったが、開催四日目に2着入線した後、詳細理由不明のまま帰郷してしまった。体調なのか心の病なのか、いずれにせよ舟券ファン達から心配されるところであったが、ここは地元の得意水面。元気に舞い戻って来た。
開催初日から3着入線、二日目の二回走りも一つは2着につける等、かつての彼女からは想像し得ぬ好調ぶりを見せつけた白石有選手だが、やはり出色は三日目、通算6個目となる勝ち星である。
2023年7月29日のボートレース江戸川第一競走は、以下の面子で争われることとなった。

一般戦でありながらオールB級女子の一戦。ついこの前までA級であったような同支部の先輩が外に一人いるものの、白石有選手が特に落ちぶれている、という雰囲気は一切感じられない布陣だ。流石に一号艇が逃げそうではあるが、2着付けとなると、ほぼ新人の大外を除いて横一線、二日間の成績を鑑みれば、白石有選手はそこそこ上位に推されても納得といった感がある。

オッズ表を見る限り、上述の感覚は多くの舟券師たちに想像されていたようで、一番人気は1-5-4、二番人気も1-4-5で、白石有選手が舟券に絡むことが常識的に想定されているという、二年前までは有り得なかった事態となっていたのだった。三番人気は5-1-4、四番人気となると遂に4-5-1という白石有選手アタマの舟券がランクインするのだから凄い。続いて4-1-5と5-4-1が同率の五番人気となって、要は145のボックス舟券が売れていたということになるわけだが、何れにせよ、未勝利連敗女王の汚名は最早完全に払拭されつつあるといっても過言ではないかもしれないのである。
四号艇が勝つならこの形、の典型的スリット
そしてレースである。ダッシュ勢における最内、いわゆるカドとして好発進を決めた白石有選手は、セオリー通りに内三艇を捲り切って、さっさと勝負を決めてしまったのだから、これまた凄い。

トップスタートは同支部の元A級選手だが、カド受け三号艇と白石有選手に.09もの差があるのは流石に大きい。何しろ全速でスタートを切ることが出来るダッシュ勢と比して、最高速度への到達を目指す段階でスタートラインを切ってしまうこともあるスロー勢だから、この差は開くばかりだ。



そもそも、ついこの前までに白石有選手は、とにもかくにも差し一辺倒の選手だった筈である。捲り差しの勝利にしても、ターンマーク手前で著しく失速した艇の前にたまたま出て、旋回時に外へ膨らんだ艇の内側へ差しハンドルを入れたら綺麗に入った、というものであった。それが近頃は、果敢な捲り旋回を仕掛けることが多くなってきた。今回の勝利も追い風に負けず捲り切ったものだし、直近の舟券絡みも執拗に捲りをかけて捥ぎ取ったものである。もちろん差しが悪いわけではない。差しも捲りも出来る、という状態が大切なわけで、走りに大きく幅が出て来たことが、勝ち星は勿論、2、3着の頻度にも好影響を及ぼしていることは間違いないだろう。
いい時は本当に全てが噛み合う、アスリートの常識か。
軽量女子がおっかなびっくりと舟を進める江戸川水面で、良い思い出も手伝って思い切りのいいレースぶりを見せてくれた白石有選手に、今のところは天運も味方についている。この日は二回走りであったが、二走目では六号艇6コースから最下位入線だったものの、内側三艇が全てフライング返還欠場となった為、成績としては3着であった。この結果を受けて白石有選手は勿論、開催三日目終了時点で得点率ランキングの上位につけている。

11位だから準優出圏内ギリギリではあるが、再度の舟券絡みがあれば、優勝戦出場だって、もしかすると、あり得なくはない立ち位置である。ここで大輪の花が咲けば、さらなる躍進への扉が開かれる可能性もあろう。今節は大きな節目となるかもしれない。