令和6年の中央競馬が始まって早二か月。今年も既に30勝を超える勝ち星を挙げ、つまり年間180勝ペースというド一流ここにありといった態勢でリーディングの逃げ切りを狙うお馴染みの騎手がいることは、少し調べれば誰にでもわかる事実だ。競馬情報のサイトは有料無料有象無象、まぁとにかく沢山あって、騎手の勝利度数や勝率のリーディングは頻繁かつ確実に更新され、全世界に住む人々の目にいとも容易く触れられている。
上ばかりじゃなくて下も観てみようぜ

しかし一方で、年間で最も後塵を拝した騎手、もしくは最もビリになりやすい騎手、ダービーならぬブービージョッキーは一体だれなのか、といった情報は、なかなか探し出せない。何頭かの馬と人間が共にゴールを目指す中で、一番初めに決勝線を通過する人馬がいる限り、一番最後にそこを通過する者共がいる筈なのに、その扱いは正に雲泥、向日葵と月見草ほどの差がある。
下位着順は馬券に関係ないから仕方ない。仕方ないが……
この不公平感は、まぁギャンブルだからね、との一言で容易に拭い去られてしまう。要は競馬には、勝馬投票券という奴が付いてまわるのである。最も勝ちやすい騎手を把握しておくことは、検討の際に確かな力となろうが、最もビリになりやすい騎手の情報を知ったところで、馬券的には4着以下は全て同じ、価値のない存在と見做されてしまうから、具体的に18着だろうが17着だろうが、その差はないも同じだ。だから、最下位ジョッキーの決め方は、勝ち星が最も少ない者、ということになる。
最も速い奴がいるなら、最も遅い奴だっているんだ
しかし、繰り返しになるが、最も速い人馬がいるのなら、そのレース数だけ、最も遅かった人馬が居た筈なのである。本当の最下位ジョッキーとは、勝てない、の一点だけでなく、最も遅く、皆が走り去った後の馬場をトンボを引きながら回ってくるようなイメージなのではないか。上位馬の入線に観客が大きく沸き、掲示板の表示を心待ちにしている頃、バタバタと足並み乱れて、しかし誰にも気づかれずひっそりと大差負けでゴールするような、そんな馬ばかりに乗っている騎手こそが、リーディングトップとは真逆の位置に鎮座するべき騎手なのではないか。
とりあえず、途中経過を発表します。
前置きが長くなったが、当記事は、本年の中央競馬初日から2月の開催を終え、新人騎手がデビューする直前の時期における、最多最下位入線騎手、及び最高最下位入線率を誇る騎手、二項目について調べて載せるものである。独自の手集計であり、多少の誤差が生じた可能性があることをご容赦賜りたい。
まずは、最多最下位入線騎手の上位七人を発表したい。敬意を込めて、彼等を「荒れ馬場の七人」と呼称する。
最多最下位入線騎手「 荒 れ 馬 場 の 七 人 」(2月末現在)
順位 氏 名 最下位 – ブービー – 上位 最下位率 ブービー率
1位 田口貫太 16 – 14 – 141 .094 .175
2位 小林勝太 12 – 11 – 89 .107 .205
3位 菱田裕二 12 – 6 – 64 .146 .220
4位 小林美駒 10 – 10 – 64 .119 .238
5位 原優介 10 – 10 – 86 .094 .189
6位 団野大成 10 – 7 – 94 .090 .153
7位 野中悠太郎10 – 3 – 44 .175 .228
栄えある初回調査の第1位は田口騎手となった。2位以下を少し離して独走だが、そもそも騎乗数が図抜けて多いので致し方ない。上掲の通り、馬場掃除ガンマンたちの殆どが減量特典のある10代から20代前半の人材で占められているなか、若干この先の騎手人生に不安を感じさせるのが3位の菱田騎手31歳と、騎乗数が1位田口騎手の1/3にも達していない7位野中騎手27歳である。二人とも今年の勝ち鞍は2つ。もっとも、菱田騎手はその半数が長距離戦の重賞勝利だし、通算400勝以上を挙げている実力確かな中堅なので、さしたる心配は不要か。怪しいのは野中騎手の方、ということになろう。所属する根本厩舎には兄弟子と妹弟子がおり、期待馬が入厩したとしてオイソレと野中騎手に回ってくるかどうかは心許無い。追い風としては今年通算100勝を達成したことだが、アラサー若手騎手として一層の奮起が期待される。
……というように、最下位のデータを集めるとそれなりに見えてくるものはある。馬券に役立つことは恐らくないだろうが、競馬にまつわる人間模様の充実に寄与することは間違いなかろう。
さて、次に最高最下位入線率の上位騎手をご紹介したい。騎手人生の前途を占う意味では、こちらの方が絶望感が強く漂うことは自明である。武士は食わねど高楊枝、農民にも勝てないがめげない精神力と闘志を称えて、「七騎の侍」と呼びたい。
最高最下位入線率を誇る騎手「 七 騎 の 侍 」(2月末現在)
順位 氏 名 最下位 – ブービー – 上位 最下位率 ブービー率
1位 服部寿希 1 – 0 – 0 1.00 1.00
2位 岡田祥嗣 3 – 0 – 1 .750 .750
3位 土田真翔 5 – 2 – 5 .417 .583
4位 大久保友雅2 – 1 – 2 .400 .600
5位 田中健 6 – 2 – 10 .333 .444
6位 的場勇人 4 – 5 – 6 .267 .600
7位 木幡育也 4 – 4 – 7 .267 .533
とんでもないことになっているのだった。まず目立った怪我も病気もない服部騎手が、ここまで一鞍しか騎乗がなく、挙げ句その馬は勝利者から7.4秒も遅く、ブービーからですら1.5秒も遅い大差負けの最下位入線となったのである。押しも押されもせぬ最下位率10割だ。まだ24歳とはいえ、中央競馬界では最早七年目を迎える若手騎手だが、ここまで僅かに通算6勝。昨年と2020年は、減量特典がまだあったのにも関わらず年間未勝利という負の記録を達成。今年は最早その特典もなくなり万事休すである。
2位は打って変わって地方競馬通算1900勝を達成している大ベテラン、岡田騎手52歳である。地方時代の栄光はどこへやら、中央移籍以来はや10年、その間二桁勝利を挙げた年は皆無、と低調な成績が続くが、そろそろ肉体的な衰えも見えてきはしないか。因みにこちらも2021年を年間未勝利で終えている。
3位の土田騎手はデビュー初騎乗の日に落馬する等、負の印象を振りまいた結果デビュー年に年間未勝利となってしまった損気な20歳である。所属厩舎から出たのか出されたのか、今年からフリーとして活動しているが、果たして乗り鞍の量と質はどうなるだろうか。今のところは上掲の通り、今後の変動を見守りたい。
4位大久保騎手は先月末からニュージーランドへ留学しており、暫くこの数字は動かないものと思われるが、帰国後別人のような大活躍が期待できるかもしれない可能性を残している。
5位と6位は共に30代半ば、東西に分かれて馬場掃除を担わされているお二方、という塩梅になってしまった。田中騎手の方は10年近く前になるが重賞勝ちもあり、本年も2勝を挙げ、侍のうちで唯一ブービー連対率が5割を切っており、七騎からの早期離脱が最も期待できる存在だが、6位の的場騎手は怪しい。父親の経営する厩舎を出てフリーになっている筈だが、本年における騎乗依頼15鞍のうち大半、実に13鞍がその父親からのもので、閉鎖的な競馬村にあってさらに閉鎖的な暮らしをしているようにも窺える。父親の成績も低迷しており、ここからの巻き返しは想定し辛い。三年後に父親が定年を迎える予定だが、案外それがきっかけで齢四十にして花開く、といったことがある、かもしれないが、どうだろうか。
7位は競馬騎手三兄弟の末っ子だが、どうにも兄二人より上手く騎手人生を立ち回れず、実戦騎乗や調教以外の不祥事や不運が重なって、昨年、一昨年と年間未勝利に終わっている。今年は既に1勝を挙げ、年齢を気にせずに飲める久方ぶりの美酒に酔ったものと思うが、兄たちを凌駕するような活躍は、まだすぐには見られないだろう。因みに、兄たちの最下位率順位はというと、長男が30位で次男は96位であった。中央競馬所属の騎手がだいたい150人程度であることを考えると、特に次男は最下位を回避しようと足掻く、という姿勢においては上位50%に入っていることになる。
……と、まぁ、そら恐ろしい事実すら浮き彫りにすることが出来るのが、この最下位関連情報なのである。今後もデータ取りを続け、適宜情報を公開していきたい。あと残すところ10か月だが、この延べ14人がどう入れ替わっていくのか、はたまた突き放してしまうのか、注目して見守っていけば、馬券の参考にはならないにしても、競馬をもっと楽しめることだろう。