2024年も残すところ10か月強、柴田善臣騎手ようやく本年初勝利。


競走馬の騎手として40年目の春を迎えんとする柴田善臣騎手(57歳/東/フリー)が、2024年における初勝利を挙げた。つまり1月は未勝利で終わっていたわけだが、そもそも騎乗機会が20回しかなかったのだから、さほど事態は深刻ではなかった。

<JRAの公式動画より。決勝線>

本年ここまでの柴田善騎手。

去る2023年は20鞍のうち2着が2回、3着は1回。連対率.100となると中堅下位といった成績だが、馬券になった全てのレースで人気以上の着順を記録しており、延べ20頭について単勝馬券の支持平均をとってみると、10.15番人気だったところ、実際の着順は8.95着であったから、期待以上の活躍は出来ていたといえる。決して機運が落ち込んでいたわけではない。

とはいえ、そもそもの平均10.15番人気という数字こそが暗雲を感じさせはする。何しろ雑な考え方をすれば毎回二桁人気の馬しか騎乗依頼が来ないということであり、それは柴田善騎手の存在意義を疑わせるに充分足るからだ。氏の騎乗技術が全く衰えを見せないのは人気以上の着順成績が物語っているが、なるべく早く勝ち星を掴み取って存在感を喧伝し、勝ち鬨と拳を上げて分厚い雲を弾き飛ばしたいところではあった。

初勝利はまさかの京都。西側厩舎。

2024年2月18日。柴田善騎手は京都競馬場に居た。関東所属の、しかも乗鞍の減っている騎手として、第三場ならともかく、いくら重賞開催が無いからとはいえ、西の本場に赴くことはなかなかに珍しい。事実、昨年の柴田善騎手は、京都競馬場で年間たったの5回しか出馬していない。

<ウマニティより。柴田善騎手の2023年における各競馬場別騎乗数>

しかし、今年はこの日だけで昨年と同数となる5鞍の騎乗依頼を受けたのだった。G1デーの三場開催であり巡り合わせの妙があったにしても、稀有な事態であった。

さて、相も変らぬ腕前で第4Rで七番人気の新馬を3着にまで導いた柴田善騎手は、続く第8Rでゴリゴリの一番人気に推されたアロットドリーム(牝4歳/父ディスクリートキャット/西・本田厩舎)に跨った。何しろ単勝1.6倍である。同馬はこれまで西側の騎手たちを背に10戦し、1着1回2着3回3着2回、と、勝ち星こそ一つながら、キャリアの半数以上で馬券になるという安定した好成績を収めていた。東側である柴田善騎手はもちろん初騎乗、乗せる彼女にとっても関東の人間とコンビを組むのは初の経験であった。

アロットドリームの戦績は、しかし、結果だけ見れば堅実な賞金取りではあるものの、2着3回というのは直近三戦でのものであり、そのうち2回は一番人気を裏切ってのものだから、陣営としては稼ぎへの有難さよりも歯がゆさの方が遥かに上回っていたことだろう。三度目の一番人気でなんとか決めたい、と心機一転、東の長老に騎乗依頼が飛んだものと思われる。

善戦馬あるある。

こういった、毎回上位には食い込むけれども勝ち切れない、といった馬の特徴として、圧倒的な決め手に欠ける、という点が挙げられる。スパッと切れるような末脚がないのだ。アロットドリームの前三走も、決して上手いとはいえないスタートから、追って追って前へ前へと先団に取り付く、もしくは逃げて、そのままゴール線まで何とか粘り込みを図ろう、という走りであった。先手をとった優位は末脚の差できっちり清算され、それどころか若干の赤字となって二番手入線、といった戦いが続いていたのである。

今度こそ勝てるか。同じ轍を踏むのか。

柴田善騎手に手が変わって、果たしてこの戦法は引き継がれるのかもしくは抜本的に変えられるのか、注目のスタートが切られたが、アロットドリームはやはりやや出負け気味であった。

<JRAの公式動画より。スタート直後。画面中央やや左の、黄色い背中に赤い×模様の服を着させられ、青色帽子を被らされているのが柴田善騎手。画角が真横ではないにしても、明らかに他馬より後ろを走っているのがわかる>

そこからの後方待機、は選択肢として勿論存在するが、本走はダートの1200m戦である。直線のバカ長い東京競馬場ならいざ知らず、京都でその手を打つのは、しかも一番人気を背負って行うのはかなり危険である。しくじった時の風評が如何様なことになるのか、火を見るよりも明らかだ。さらに、前述の通りアロットドリームに末の脚はない。前半溜めに溜めたところで、ダラダラ走れる距離がただ伸びるだけだろう。

柴田善騎手は、これまでの西側騎手同様、追い立てて先団、逃げ馬の二番手まで取り付いく。勝ちを追おうにも、善戦した当時の後追いをする選択肢が最も妥当なのだから仕方ない。ここからまた伸びず垂れずの2着止まりかと思わせたが、そこは柴田善騎手であった。

<JRAの公式動画より。発馬後の200mを過ぎたあたり。ゼッケン7番アロットドリームと柴田善騎手は、逃げ馬に追いついてピタリとマーク>

三角、四角と番手走行を続け、いよいよ直線。ここで柴田善騎手とアロットドリームの、地味かつシブトイ末脚がダラダラと、しかし熱く展開される。

<上下二枚とも、JRAの公式動画より。四角の終わり。内外の差で画面一番左の逃げ馬に離されたように見えるが、並走状態>
<ゴールまで残り200m付近。まだ並走>

逃げ馬を睨むかたちで直線を走るアロットドリームは、キレないものの長く使える末脚と、何より競走馬由来の負けん気によって、逃げ馬といつまでも競り続ける。実は直近の敗戦は全て、先団からアロットドリームが抜け出し切ったところを後続に強襲されてのものであり、前を行く馬と接戦のままゴール前までもつれたことは無かったのである。

その事実を知ってか知らずか、柴田善騎手は逃げ馬の居ない左側に肩ムチを入れて促し続けることでアロットドリームに競り落とすべき相手を意識させ、ただでさえ長く続く末脚を効果的に活かし切り、ゴール前残り数十メートル付近で逃げ馬より半馬身前に出ることで、後続の強襲を間に合わせなかったのだ。

結果的にアロットドリームは自身の2勝目を、柴田善騎手は今年の初勝利を挙げることができたわけだが、見方によっては、競り合いから早々に脱落せずに頑張ってくれた逃げ馬のおかげ、と思えなくもない。しかし、もし四番人気であったこの逃げ馬が直線ですぐに前を譲ってしまったとしても、アロットドリームのすぐ左背後には緑帽子騎手の操る三番人気馬が控えていたわけで、こちらと並走勝負に持ち込むことで、やはり勝ち切ることができたように思われる。この三番人気馬は半馬身差の2着であった。

勝ち上がりの他にも、やはり地味ながらも着実な成果が。

アロットドリームはこの勝利で、自身が持つ良馬場ダート1200mのベストタイムを0.6秒も更新したこと、そして何より、同じく良馬場のダートにおける後半600mの走破時計も自己記録更新となる36.8秒であったことを付記したい。つまり、併せ馬状態を維持したことによって、末のキレが明確に良化したと考えることも出来るのである。もちろん牝馬といえどまだ古馬になったばかりであり、競走馬としてアロットドリームが大きく成長したという可能性もあろう。

しかしここは、柴田善騎手の卓越した判断力と腕によって齎された勝利である、と見做したい。衰えの見えない氏の2024年はどんな年になるのだろうか。重賞最年長勝利者の座は奪還できるのだろうか。期待して見守りたい。


労働階級からの解放を志し、収入のアテもないのに突然脱サラ。後先考えないその姿勢に後悔しきり。

1件のコメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です