柴田善臣騎手、メインレースを伏兵で制す。


梅雨明けを目前に控え、夏競馬の気勢が天高く舞い上がっている灼熱の福島で、JRA騎手界の生き字引、柴田善臣騎手(57歳/東/フリー)が今年四度目の勝ち鬨を上げた。前回の勝利から20日程度しか経っておらず、いよいよエンジンが暖まって来たのかもしれない。

<JRAの公式動画より。決勝線>

馬は暑さに弱い、だから夏は北海道、だけじゃない蹄人。

2024年7月6日。福島競馬場はこの時期の例に漏れず、たいそう暑かった。夏競馬といえば北海道、何故ならサラブレッドは暑さに弱いから、と、本物の馬券を手にしたことが殆どない一般の方々は想起するだろうが、真実は非情で過酷だ。三場開催のうち北海道は函館の一場のみで、残る二つは上述の福島と、九州の小倉である。ちいとも涼しかないのだった。

老いと明鏡止水の意外な関係

お年寄りは冬に弱い分、夏に強い、と誰かが述べている。曰く、汗一つかかず、縁側で熱いお茶を飲んだりすらするのだという。実のところこれは、夏に強いから可能となる芸当ではない。歳をとると代謝が弱くなるので汗をかきにくいし、何より身体の熱感センサーたる部位がだいぶ鈍くなっているため、暑いかどうかを判定するのに時間がかかる。その間、ご老人は涼し気な顔をして佇んでいるが、体の内部は熱中症一歩手前の状態にまで追い込まれていることもあるらしい。要は、その事態に気が付かないだけ、もしくは気付いても汗が出せないだけなのだという。

それはそれとして、中央競馬界最高齢騎手の柴田善臣氏である。元来腰痛に悩まされていたことを鑑みると、神経痛が顕著に悪化することが明白である極寒の冬場よりは、今夏のような蒸し暑さの中で活動する方が健康的といえるだろう。何しろこの日は福島のメインレース、鶴ヶ城ステークス(ダート1700m/3勝クラス)を、15頭立ての九番人気という下火の評価に甘んじていた馬に跨って、見事に勝利してみせたのである。しかも初騎乗でだ。

クラス慣れ すれど日の目は 夢遥か

馬の名はショウナンライシン(牡4歳/父エスケンデレヤ/東・大竹厩舎)といって、連勝して3勝クラスに上がったところまでは良かったものの、その後は停滞。14着、12着、9着と、徐々に着順を上げてはいたが、準オープン馬として通用しているとは述べがたい状況に陥ってしまっていた。先行押し切りが持ち味であったが、上述の9着となった前走では、控えて後ろからの競馬をさせる等、陣営もオープンクラスへの勝ち上がりに向けて試行錯誤、頭を悩ませていたようである。しかしいよいよ手詰まり、大ベテランの手綱でもって今後の判断を占って貰おうといった塩梅もあったのだろうか、今回の初コンビが成立した。

外目ながら王道競馬。

六枠11番とやや外目の枠ではあったものの、好発馬を決めたショウナンライシンと柴田善騎手は、そのまま先行集団へと取り付く。多くの地方競馬場とは比べるべくもないが、中央競馬としては小回りとなる福島のダートコース。1700m戦はコーナーを四つ全て曲がる為、内外の差が色濃く出るので、ショウナンライシンと柴田善騎手は最初の一角を迎えると内側の人馬に前を譲らざるを得なくなり、やや離れた四番手まで後退する。ここで張り合っても無価値に近いので、定石といえる。大事なのはその後で、二角、三角と、徐々に迫ってくる後続馬たちにはその後一切譲らずに最後の直線を迎えたことである。四角では先団が横一線、圧巻のトラックレースが出来上がっていた。

<JRAの公式動画より。四角の途中。画面やや右の緑色帽子を被ったのが柴田善騎手。黒、赤、赤、緑、黄色帽子の騎手たちが横一列に並んでいる>

当然ここでも小回りコースの内外差で、直線に出る頃には内側の馬が数歩前に出ることになる。きっちりと砂圧が調整されている中央競馬のダートならではといったところだが、そうなると外目を回った柴田善騎手とショウナンライシンはやや不利だ。

<JRAの公式動画より。直線を迎え、柴田善騎手が右鞭を打った瞬間>

上掲の通り、最内の黒帽子騎手が駆る馬とショウナンライシンとの間には、半馬身から一馬身ほどの差が開いてしまっている。

しかしここからが強かった。前々で追走し、最終コーナーも外目を回らされるロスがありながらも、ショウナンライシンは柴田善騎手の鞭打ちに応えてグイグイと伸び足を繰り出し、内側の馬たちを完封し、逆に一馬身の差を付けて押し切ったのである。

これまで勝ちあぐねていた馬が、鞍上を変えてガラリ一変、見事に勝利を収めたとあっては、柴田善騎手の評価はまだ上がり目を見せることだろう。これでオープン入りとなったショウナンライシンと共に、様々な地方競馬場へ遠征する氏の姿が、また見られるかもしれない。


労働階級からの解放を志し、収入のアテもないのに突然脱サラ。後先考えないその姿勢に後悔しきり。

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