予期せぬ事態は往々にして起こりがちであり、だからこそ各種保険会社の存在意義と利潤が増していくわけだが、ボートレース界隈においてもご多聞に漏れず、とんでもない倍率の舟券が当たってしまったリする。
初めてはだれでも緊張します。
2022年3月18日。ボートレース三国では一般戦「坂井市制16周年記念」の開催三日目が執り行われていた。元・最年少女子レーサーにして、既に昨年まるまる一年分の勝ち星を今年の僅か三か月足らずで稼ぎ切り、好調の波音が美しく響かんばかりの生田波美音選手(19歳/B1/124期/東京)は、この男子優勢の一般クラスに於いて、いやらしい賑やかし要員であるかの如く、他の女子数名と共に参戦しているのだった。四年目にして初の北陸、三国水面である。つまり待機所も宿舎も初使用であり、そのことが影響を及ぼしているのか否か、初日こそ3着があったものの、その後は一号艇での出走もありながら6着を二連発と、決して良好とはいえぬ状況下にあった。
そんななかでの一回走り。メンバーは下表の通りであり、所詮はB級女に過ぎぬ生田選手の評価はさほど芳しくはなかった。

無難に1か、3が行くか。まさかの5か。4?ないないw
何しろ男子A級選手が四人。なかでも生田選手のすぐ内側がA1レーサーとなっており、腕の立つであろう彼を捌かない限り、活路はどこにも見出せない、と多くの舟券師が断ずるところであったろう。直近の成績を見ても、生田選手は明らかに見劣りしている。実は一号艇のB級選手も大差ないのだが、他艇の選手はこの僅か三日間で既に勝利を手にしているのだから、最後尾入線二回という数字では太刀打ちのしようもないのだ
おまけに、本走の直前状況も良くなかった。スタート展示では、相変わらず不安定なピット離れが悪影響を及ぼし、ドカ遅れての待機行動となり、当然の如く大外6コース回りへとはじき出されてしまったのである。


.04という数字だけを見れば勇ましいが、内側の六号艇の方が抜きん出ており、それに併せて追従した結果に過ぎないようにも見えてしまう。
「本番でも外に出て、レースに参加できず」と呼んだ舟券師がこの展示でどれだけ増加したかは計り知れない。
展示と違うの本当にやめませんか??
しかし、本番が始まってみると一転。出遅れずにしっかりと4コースを守り切り、ダッシュへ引いて定番の4カド戦へと臨んだ生田選手。展示を信じた舟券師泣かせの艇番通りの3:3。そしてなんと、生田選手はそこから捲るでも捲り差すでもなく、差しで、しかもそれほど回りしろを意識していない、キレの無い差し、ただ小回りで向こう正面に出た、というような旋回をしだけで、結果的に差し切り勝利を掴み取ってしまったのだ。その舟券師達が流した涙は三国のプールを汽水に変質させる程だったのではないか。

トップスタートは三号艇のA1選手であった。彼がそのまま捲りに行けば、生田選手もそれに追随していっただろうが、A1選手は内を絞りに行かなかった。


これはA1の慢心か、B1の幸運か。
A1選手は、ファンの期待に応えたいのかそれともその決まり手が好きなのか、最も技術が必要となる、捲り差しを披露しようとしていたのである。生田選手はそれに気づいていたからこそ、追従するのではなく差しに構えていたのかもしれないし、単なる偶然かもしれない。何れにせよ、捲り差しをする艇の後ろについて捲りに行くと、差される先行艇が障害となって進路に窮することがあるから、A1だからといって信頼しきってアクセル全開で追従しなかったことは、結果として大正解であった。
人生うまくはいかないもので、一号艇は三号艇の捲り差しを読んでいたのか、外へ張るような真似はせずに小回り旋回、二号艇こそ定石通りに差し脚を入れていたが、裏をかいた筈の三号艇は、二号艇の分しか開いてなかった一号艇の内を差し切るには窮屈に過ぎ、二号艇こそツケて回る形で引き波へ誘って失速させたものの、自身も一号艇の波を越えるには至らず失速、A1選手はその誇りと共に外へ逃げざるを得なくなった。
そして、二号艇がもたついたとなると、さらに最内の生田四号艇の出番である。外でワタワタと波に揺られる内の三艇を尻目に、穏やかに落ち着いて来たターンマーク際の水面を颯爽と横切って一息に先頭へ踊り出る青服の四号艇。五号艇が四号艇の外へ張り出して追従してきた為、一、二、三号艇は黄色い服の元A1選手にまとめて相手をされる形となり、生田選手は余裕を持って先頭をキープ。そのまま数周してゴールインしたのだった。
これぞ、競艇。されど、競艇。
3連単は1439倍。100円玉ひとつが数か月分の家賃に変わるかもしれないと思えば、ボートレースとはなんとも夢に満ちた産業であるかのように思える。しかしそれは、まともな予想では到底たどり着けない正答であり、下手な入試問題より余程難しく、しかも理不尽な推測が必要で、選択肢も120個あるとなると、科挙でも受けて高級官僚となる方がまだ現実的だとも思わせる。何れにせよ、生田選手の力と宿運を侮ると、恐ろしい目に遭うことがある、ということだけは確かだろう。
明日が予選最終日。三日目終了日時点での得点率ランキングは30位と、生田選手の優出は難しそうに思えるが、そこは十四マン舟の女、何かがどうにかなって大変なミラクルも起こらないとは断じえない。注目だ。
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