柴田善臣騎手、二ヶ月振りの勝利


一日二勝という回想列車を彷彿とさせる成績で、復調の狼煙を高々と上げてからはや二ヶ月。JRA最高齢騎手の柴田善臣氏(53歳/フリー/東)が、ようやく今年の11勝目を挙げた。夏の暑さと共に大量の勝ち星を積み重ねるかと見せかけて、次の勝ち星にここまで時間がかかるとは、やはりなかなかに老獪な意外性がある騎手であるとの感嘆を禁じえない。

東京で富士ステークス?あっそ

2019年10月19日、新潟競馬場の芝2200mコースで行われた1勝クラス11頭による特別戦。四番人気サンアップルトン(牡3/1勝/東/中野栄)と初めてコンビを組んだ柴田善騎手だが、テン乗りの手探り感を全く表に出さなかったのは流石のベテラン振りであった。道中はゆったりと後方に構え、

JRAの公式動画より。残り1000m付近の隊列。後ろから三頭目が鞍上柴田善騎手のサンアップルトン。

三角の終わり付近で大外ながら徐々に進出を開始し、四角から直線へ向くと右ムチ一発を合図にスパート、

JRAの公式動画より。画面一番左で鞭を振るう、桃色帽子を被らされているのが柴田善騎手。

最後も2着馬に三馬身もの差をつけてゆったりと逃げ切ってみせたのである。

JRAの公式動画より。先頭でゴールするサンアップルトンと柴田善騎手。

上掲の通り、まさに完勝といった佇まいであり、決して初騎乗の中堅人気馬の振る舞いとは思わせない、これぞ老練たる職人芸といえる騎乗振りであった。

少し長めのトンネルを抜け、ここから、間に合うか

まだまだ腕は光っていることをアピールするに十分な、堅実かつ確実な好騎乗であったが、しかしこれが今年の11勝目に過ぎないという点は、なかなかに重い。というのも、今年は重賞も制しており、年間7勝に終わった昨年をとうに越える良績を収めている柴田善騎手だが、一昨年の16勝を越えて完全復活を印象づけられるかどうかは、かなり怪しくなってきたといわざるを得ないからである。ここまでの二ヶ月間全く勝ち星に恵まれなかった騎手が、残り二ヶ月で、実に6勝もしなければならないのだ。

ちなみに、さらにその前年、2016年の柴田善騎手は36勝を記録しており、重賞も勝っているから、一昨年の16勝を越えることができれば、ひとまず古豪の復活気配を強く印象付けることは出来るだろう。翌年には多くの好調馬に騎乗することができるかもしれない。まだまだこれからも正念場である。

またも初騎乗での勝利だが、ということは誰かの…

一方で、少し視野を広げてみると、今回の勝利には少し懐疑的な印象を抱かざるをえないファンも多かろう。柴田善騎手が導いたサンアップルトンは、以下のような戦跡をたどっていたのである。

JRAホームページより。

デビュー戦から前走までの7戦、全て鞍上は黛弘人騎手(33歳/フリー/東)だったのだ。

JRAホームページより。

本年僅か5勝、お手馬だった筈のサンアップルトンが柴田善騎手を背に勝利した2019年10月19日の時点では4勝に過ぎなかった。数年前に重賞勝ち鞍はあるものの、伸び悩む三十路、失礼ながら岐路に立つ中堅といっても過言ではなかろう。

見方によっては、柴田善騎手は彼から近い将来手にしたであろう勝ち星を一つ奪い取ってしまったとも判断できる。なにしろ黛騎手は19日の土曜日、一切の乗鞍が無かったのだ。つまり、体は空いていたのに、調教師が彼を乗せず、ベテランに頼ってしまったということになる。黛騎手はサンアップルトンから引き摺り下ろされたのだ。

ここまでもこの先も、推察、妄想、邪推です

もちろんこれは憶測に過ぎない。もしかしたら、黛騎手にとってどうしても外せない、若しくは外したくない冠婚葬祭等の用事が入ったため、彼は土曜の騎乗を全てキャンセルしたのかもしれない。

しかし、サンアップルトンの近走成績を見直せば、残念ながら黛騎手は担当を外されたと見るのが妥当だろう。前々走は三番人気に応えられずに7着、前走も二番人気の支持を裏切って同じく7着となっては、引責辞任も仕方あるまい。

実際の敗因はいろいろあろう。前々走のサンアップルトンは三ヶ月振りの実戦で、体重は+20kgもあったし、前走ではそこから無事に12kg絞ったものの、ただでさえ重たい札幌の芝が雨に濡れてしまった。

しかし、万全の態勢ではなかったとはいえ、二番人気三番人気の評価を受けていたのにも関わらず、馬券圏内はおろか、掲示板まで連続で外すとなると、陣営としても黛騎手の腕を疑わざるを得ない。そして何より、30代もそろそろ半ばに差しかからんとする騎手が、障害戦には騎乗していないなかでの通算140勝、しかも今年は未だ4つの勝ち星しか挙げていなかったのである。その疑いが夕刻に立ち込める暗雲のごとく陣営の脳内を支配してくるのは、至極道理であった。

馬と騎手と騎手、これからどうなる?

而して柴田善騎手は、後輩のお手馬を難なく乗りこなしたのみならず、ものの見事に外枠からの王道競馬で勝ちきって見せてしまった。しかも後続には三馬身の差をつけ、こいつは勝って当たり前の馬でございと言わんばかりに余裕勝ちの印象を、周囲にばら撒いてしまったのである。

これでは、黛騎手の力不足を業界内部に宣伝しているようなものだ。何しろ今までのサンアップルトンには黛騎手しか跨っていなかったのである。「やっぱりベテランの柴田善騎手だな。普通の騎手よりもまだまだ腕が立つよ。流石だな」となればいいが、「あぁ、やっぱ黛が駄目だったんだなぁ。何しろ五十代のロートルでも勝てる馬だったんだからなぁ」という評価で片付いてしまう可能性がある。今後サンアップルトンの馬柱を見た多くの馬券ファンは、そのように見立てるのではないだろうか。

次のサンアップルトンには誰が乗るのか。そして、黛騎手の騎乗数にどのような変化が生じてくるのか、もちろん柴田善騎手の一月三勝はあるのか、それぞれ注目だ。


労働階級からの解放を志し、収入のアテもないのに突然脱サラ。後先考えないその姿勢に後悔しきり。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です