ボートレース浜名湖で6日間に渡って開催されていた一般戦の「ニッカン・コム杯」は、2019年7月18日、つつがなく幕を下ろした。水神祭に向けて精進を続ける16歳のルーキー、生田波美音選手(B2/東京/124期)は、新人のセオリー通り大外からの5,6着を並べるも、5日目には3着に滑り込み、200倍を超える配当をファンにプレゼントした。
フライング後遺症はまだ続いているようだが…
前々節で.01の惜しいフライングを切って以来、基本的には最終日を除いて慎重かつ低調、鈍重なスタートを切っている生田選手。今節もその傾向に変化はなく、初日から3日目までの四走はそれぞれ、.23・.43・.41・.26であった。高潔な安全意識と、希薄な敢闘精神を感じさせる数字である。
しかし今節の生田選手は、1マークを迎える直前からこの意識と精神が逆転する。デビュー当初のやんちゃ娘へと鋭い変貌を遂げるのだ。
捲り差しを磨く日々
まずもって初日から見事な捲り差しハンドルを披露してくれた。大外で出負けした態勢からの3着争いとは、新人離れも甚だしい手際のよさである。



上掲の写真からは、舟券圏内は確実として、あわや連対もあるかと思わせるほどの鮮やかな回り足が見て取れる。スタートでの死んだふりから奇跡の転生だ。


その後は上掲の通り、2マークで内外から挟まれるかたちとなってしまい、生田選手は戦線離脱を強いられてしまう。1マークの好旋回が帳消しにされてしまったわけだが、あの捲り差し旋回の見事さは、決して色褪せることはない。
その後、二日目、三日目ともにスタートの後は攻めの旋回を見せる。もちろん技術の至らない面もあり、箸にも棒にもかからないように艇が外へ流れていくこともあったし、あわや転覆大事故といった際どい失敗もあった。


しかし、やんちゃ娘の冒険はとまらない。意地と努力が実を結んだのは、5日目のことであった。
試行錯誤の末に
この日の5R。唯一のダッシュ艇として.38の重たいスタートを切った生田選手は、しかし相も変わらず鋭い闘志をもって第1ターンマークへと向かう。


遅いスタートから強引に捲り差しては命の危険すらある。そう考えたのかどうか、今回は差し一辺倒の構えであり、幸運にもこの選択によって、生田選手は5号艇の転覆に巻き込まれずに済んだ。


しかし、事故には巻き込まれなかったものの、6号艇を差し切るまでには及ばず、生田選手は四番手から五番手での追走となった。これは仕方があるまい。元々が無理筋である。4コース進入だった6号艇とは、スタートの段階で.07秒の差がついていたのだ。6号艇の操者が下手を打たない限り、出し抜いて差し切るなど夢物語である。
しかも、この時の6号艇にはA1レーサー、一瀬明選手(東京/72期)が乗り込んでいたのだから、勝ち目がないのは明白であった。下欄の通り、今節も大変結構な良績を収めており、最終的には優勝戦で2号艇に乗って2着となっている選手だ。

しかしそれでも、生田選手は諦めない。年齢差だとか実力差だとか、同支部の大先輩だろうがそんなものには屈しない。やんちゃ娘は、初日で大きな後退を余儀なくされた1周目2マークの失敗を繰り返さぬ様、かなりイメトレをしてきたのであろうか、素早い極小旋回でファンの度肝を抜いたのであった。




A1レーサーまさかの失態か。内を絞るでもなく外へ握るでもなく、ただ普通に回ってきた6号艇の一瀬先輩に対し、4号艇の生田選手は内も内、ターンマークのギリギリを、アクセルレバーを巧みに使って等速小回り旋回。見事に差し切ってみせたのである。この先には事故艇が待ち構える1マークがあるため競り合いは不可能だから、これにて初の舟券圏内が確定したのであった。
この3着は棚ぼたか
こうなった要因は、決して一瀬選手の怠慢ではない。主因としては二つ挙げられるだろう。
まずは、事故の発生によって大筋が決まったレースであったことだ。転覆艇とその選手に要らぬ損害を与えぬよう、安全第一で周回を終えるべきところであったから、状況確認を優先し、キレイに回ることを考えた一瀬選手の判断が誤っていたということはない。
さらにこのレースは一般戦だったということも要因である。予選や準優勝戦などであれば、この1周目2マークが実質的に最後の勝負どころとなるため、多少の無理を押して攻めることも考えられるだろうが、今回は一般戦、しかも一瀬選手はこの後の12Rに準優勝戦を控える身なのだ。旋回を厳しく絞りきった結果、やんちゃで向こう見ず、かつ技術的に劣る生田選手と事故を起こし、怪我をしてしまったり、賞典除外の憂目にあってしまってはたまったものではない。ここは多少ゆるい旋回となっても、安全運転をとるのが正解であった。
以上の二点が追い風となって、予選も一般戦も区別なく全力で、他艇のアクシデントも何も気にせず全力で、前を追い越すことだけを考えるバーサーカー生田選手の、そんなの関係ねぇターンは決まったのである。
もちろん、速度をそれほど落とさない小回り旋回という、連敗女王・白石有美先輩(B2/118期/東京)には不可能な妙技も確実に身に付けつつあるのは確かであり、本人の実力向上も大きな要因のひとつだ。
最終日にあわや…
努力の積み重ねと度重なる幸運が実を結んでの3着であり、最終日に展望が開けたが、それが大きな慢心を生んだのか、後方我慢を続けていたはずスタートが、今節最後のレースで飛びきりのやんちゃ発進となってしまった。生田選手も心臓に負担がかかったに違いない。
何しろ、.00のタッチスタートである。波の具合によっては完全にアウトだ。スタートは判定中となり、ファンの誰もが固唾を呑んだが、無事に助かった。しかし、これも完全な幸運によるものである。
しかしながら最終日のこのレースは、生田選手を含む三艇が仲良く並んでの.00スタートであり、決して生田選手が飛び出していたわけではないことについては付記しておきたい。

生田選手は、隣の艇よりも抜きん出るつもりはなかったのではないか。ただ並走するつもりで、最終日の最後だけ、後ろからではなく、並んで出よう、と思ったのではないか。
それがたまたま、隣とさらにその隣まで、皆が早めの踏み切りであった。それだけのことである。それだけのことだから、むしろ、必ず無事に救われなければならない案件であった。これでフライングを取られてしまっては、成績的には勿論、何より精神的に大きな痛手となってしまったことだろう。前へ出てはダメ、並んでもダメ、となれば、もう水面のごみ掃除しか仕事は残されていまい。
.00。せっかくのタッチスタート成功であったが、内側二艇がぴったりと付いていたのでは、さすがに大外コースはどうしようもない。B2級の腕では最下位に甘んじるのも仕方がないといえよう。繰り返すが、ただ隣に並んで走っただけなのだから、大外では最下位も当たり前に有り得る話で、決して大した話ではないのだ。断じてフライング気質ではない。
しかし、.00という数字を実際に目にした本人はどうだろうか。「やばっ」、と思ってしまっただろうか。先輩連中とただただ肩を並べて走っただけなのに、「もっと気をつけよう」と思ってしまうのだろうか。
水神祭が遠のくような精神状態に陥るのだけは避けたいところだ。最年少の東京支部女子は、連敗女王たる資質を秘めていると専らの噂はまだ立っていないが、次節に注目だ。
