何故この走りを開催四日目に持ってこれなかったのか。数年前は最年少女子レーサーだった生田波美音選手(19歳/B1/124期/東京)が開催最終日に見せた、堅実な捲り差しを目の当たりにしたファンらは、そう嘆かざるを得なかっただろう。
川の流れのように。
2022年1月28日、ボートレース江戸川で一般戦「江戸川ヴィーナスシリーズ・Yes!高須クリニック杯」の開催最終日が執り行われた。日本競艇界屈指の難水面は、今節も様々なドラマを生み出しては、舟券師たちを阿鼻叫喚の動乱状態へと誘ってきたわけだが、なかでも既報の通り、巨大惑星・白石有美選手(23歳/B2/118期/東京)の生後初勝利は出色であった。
そしてその記事でも末尾にちらっと書き記した通り、白石有選手の後輩たる生田選手はその日、三日目までオール舟券絡みと順風満帆であった筈が一変、二回走りを6着と単独転覆という如何ともフォローし難いふざけた成績で終え、4位だった得点率ランキングは25位にまで降下。一転して一般レースへのドサ回りを余儀なくされてしまったのであった。
調子の良い時にこそ、かえって慎重に事へ当たるべきなのだが、未だ酒類すら満足に飲ませて貰えないような年齢に留まっている生田選手には、この定石さえ理解不能な内容だったのかもしれない。あまりにもお粗末、力みに力んでの、まるで素人並にしか走れなくなったのかと思わせる、一周目1マークの大失速と、その手前での選手責任転覆。二走とも、レースが始まって僅か数秒で大勢決するという情けなさであった。
明日があるさ明日がある、若い僕には……
しかし、若いとは本当に素晴らしいことで、その若さゆえの無知無能っぷりは、直接的に貪欲さへと繋がっているのだから、なんとも頼もしい。地獄の四日目を終えた翌日の生田選手は、一走目の一号艇こそ、前日のショックを引きずったのか4着入線となったが、二走目の一般特賞では、五号艇5コースの不利を逆手にとって、一周目2マークでの思い切った差し足を披露し、競り合って揉める三艇を横目に牛蒡抜き、2着にまで這い上がってきた。まさに、前日の失態を前向きな怒りに変えたかのような、鬼神の如き差し足であった。




そして、人生は過ぎ行く。
そして最終日である。その一走目、俗にカド位置と称される四号艇に乗り込んだ生田選手は、以下の面々と水上を競い合うこととなった。

生田選手の大先輩、かつての史上最年少女子レーサーであったA級選手が大外に配されているだけで、他はB級、しかもB2級が二名もいる、と書くと生田選手がかなり有利なようにも感じられるが、残る二名のB1級選手が曲者で、一号艇には古のA級選手で江戸川にも慣れている大ベテラン、生田選手のすぐ内、三号艇には同支部の先輩で、これまた江戸川の成績が全国平均よりも優れている、といった選手なのである。
先輩に一切の忖度をしない、というのが生田選手の社会人的欠陥であり、同時にとてつもない持ち味でもあるわけだが、問題は、随一のトリッキー水面である江戸川をあまり苦にしない人々が、生田選手の内に入っている、という事実であり、舟券師たちを悩ませる大きな要因となっている。頭を抱えながら節間成績にまで目をやると、なんとB2B2と侮るなかれ、二号艇のB2級選手は、生田選手と同じく節間で2勝を挙げているという情報が飛び込んでくるのだから、いよいよ難しい。
傷つきながら、もがきながら、僕たちは……
うんうん唸っても発走の時はやってくる。舟券師たちは、ええいままよとお金を突っ込むわけだが、その苦悩と最終判断は、オッズの割れ具合へと如実に反映されている。下表をご覧いただきたい。

なんと、1-2-3が百倍を超えているのだ。一番人気が4-5-6の17倍というのも常軌を逸している。やはり前日の鬼気迫る漕艇っぷりが気になった舟券師が多かったということか、生田選手が人気サイドを背負うこととなったのだ。先輩に忖度しない姿勢と、荒っぽく野心溢れる若い舟足に賭けよう、という夢見がちな博徒たちの思いが感じられるような状況となった。
せーのではじめよう!Go!Go! Let’s go, Sea Story.
生田選手が確定票数を見たのかどうかは定かではないが、果たして彼女は、きっちりとトップスタートでそれに応えてくれた。


一号艇が大きく出遅れたことによって、二号艇がそのまま捲り潰しに行くが、今節調子がいいとはいえ、そこはB2級。隙は大きい。三号艇も一号艇を捲って、その大きな隙を突こうとするが、しかしその隙間は余りに大きすぎた。外からカド四号艇の生田選手が三号艇へ獣のごとく覆いかぶさり、お手本のような捲り差しが敢行される。


これが難水面に邪魔されることもなく鮮やかに決まって、4-5-6と上がらず4-3-2と下る順目の舟券167.8倍が一部の者に払い出されることとなった。
君の青春は輝いているか。
それにしても、である。今回は四カド、かつ一号艇のドカ凹み、という好要素が後押ししていたとはいえ、四日目で何故こういった確実かつ落ち着き有る操舵が出来なかったのか。一言で「若さゆえ」と片付ければそれまでだが、本当に勿体ないことこの上ないのであった。
因みに、生田選手が節間で三勝を挙げるのは、自身初の記録である。これが前倒しできれば、準優出、優出待ったなしの状況下だっただけに、快挙に喜ぶよりは臍を噛みしめる気持ちの方が強かろうが、楽しみは次節に取っておこう。今後のさらなる精進と飛躍が期待される。
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