怪我に悩まされ年の前半を文字通り棒に振る等した結果、年間3勝という騎手人生における自己ワースト勝利記録を更新することとなった、JRA最年長騎手の柴田善臣氏(56歳/東/フリー)。しかし昨年10月の年間初勝利から三か月間であと2勝を挙げたことを前向きに考えれば、単純に12か月へ引き延ばして計算すれば年間12勝できそうなペースではあったのだから、低調とはいえフル稼働の上で7勝に終わってしまった2018年の大不調よりは希望に満ちているといえる。

一月は吉報なく……
さて、2023年の中央競馬が幕を開けてはや一ケ月が過ぎてしまった。一月は17鞍に騎乗したが勝利することは出来なかった。この17鞍、という数が多いのか少ないのかといえば、直近の、負傷中だった昨年を外しての一月の騎乗数と比較すればわかるわけだが、2021年が21鞍、2020年が27鞍、2019年が30鞍、これまでのワーストであった2018年が28鞍となっていることを鑑みると、かなりの少数であることは否めない。やはり前向きに、復調気配にある、と断ずるには難しい現況なのだった。
しかし、相変わらず人気よりは高めの着順に馬を導いてくれることが多々ある柴田善騎手に、精神的な衰えは見られない。ほどなく今年も勝利の美酒を味わうことになるだろうとは馬券師の誰もが想像したところだろうが、その日は2月の前半。神武天皇の即位記念日と共にやってきた。
雪は積もったが消えるのも早かった。
2023年2月11日。東京競馬は前日の降雪によって開催が危ぶまれたものの、日付が変わる頃には雪も雨もやみ、朝方には雲一つない青空が広がったとあって、馬場や各種設備機能の確認や回復を待って発走時刻を一時間遅らせはしたが、無事に開催へと漕ぎつけることができた。柴田善騎手は3鞍に騎乗予定で、数としては相変わらず少な目ではあるものの、その内の二つが午後の特別戦とあって、関係者からの支持や期待はある程度のものが維持されていることは間違いなさそうではある。
その日最後の騎乗は第10R、古馬3勝クラスのハンデ戦、雲雀ステークスであった。芝1400mの短距離戦で、ここを勝てば晴れてオープンクラス。その後はマイルかスプリントかと、重賞戦線への夢も広がる大切な分水嶺たるレースである。
グラスの勝負服が眩しい。
柴田善騎手が騎乗するのは、奇しくも昨年、初コンビながら同騎手に遅めの初勝利を齎してくれたグラスミヤラビ(牝4歳/父サトノアラジン/東・大江原哲厩舎)であった。昇級となった同馬にはその後も柴田善騎手が騎乗し、下掲のような成績を残しこの日を迎えていた。

勝ったレースと全く同じ東京芝の1400m、という条件では昇級直後に掲示板へ載ったものの、阪神へ遠征したところ大きく人気を裏切ってしまった。やや体重も減っており、良くない意味での牝馬らしさが出てしまったともいえるし、そもそもの前提として、後ろから伸びてくる競馬スタイルが、内回りとなる阪神のコース形態とは絶対的に相性が悪いことが主因とも考えられる。
いずれにせよ、今回は勝った舞台と全く同じ、東京の芝1400m戦だから、前走のような体たらくはないであろう。前日に雪が降ったため馬場状態こそ異なるが、朝っぱらから快晴の続いた午後三時ともなれば、その影響は殆どないといえる。しかし下馬評でのグラスミヤラビは七番人気に留まっており、阪神での大敗がコース形態や輸送ではなく完全な力負け、と判断した馬券ファンは少なからず存在していたようだ。だが、昨年勝った三鷹特別も、六番人気を覆してのものだったことは、忘れてはならないのではなかったか。
発走→最速の上がりで勝利
果たしてレースは、勝った昨年を彷彿とさせるような位置取りから、満を持して進出を開始、最後は接戦となったもののクビ差退けてグラスミヤラビと柴田善騎手が勝利をもぎ取った。ゴールまで残り400m付近もある場所から既に先頭へ立っていた前走と比べるとパフォーマンス的には見劣りしたかのように思えるが、まずはクラスが違うから比較は不適当だ。最後の600mを33.4で書け抜けており、これは勿論メンバー最速である。
これで騎乗依頼が増えるといいが……
何より外国人騎手との追い比べとなった最後の直線200m間で、前に出て優勢の状態を保ち切ったことに、グラスミヤラビの牝馬らしからぬ勝負根性と、柴田善騎手に衰えの無いさまが凝縮されている。関係者にはぜひご覧いただきたい圧巻の追い比べであった。
晴れてオープン馬となったグラスミヤラビの今後も気になるところだが、管理している厩舎はこの二月で調教師定年により解散となる予定なので、今後、グラスミヤラビがどのようなローテーションを組むのか、はたまた柴田善騎手が引き続き騎乗可能となるのかどうかについては、甚だ不透明である。去り行く恩師に花向けの勝ち星をもたらしたことには流石の大ベテランといったところであるが、来月以降は依頼主の絶対数が減るわけで、ファンとしては予断を許さない状況といった感じであろう。
何にしても、これで自身の持つ最年長勝利記録をまた二か月近くも更新することとなった柴田善騎手。同時に今年の初勝利を挙げることとなったのだが、その僚馬が昨年と同じというのは、競馬の不思議な縁を感じさせる事象ではある。ここから、少なくとも3勝は超えてもらいたい。
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