復調の狼煙か最後の輝きか、生田波美音選手が久方ぶりの混合戦勝利。


人体の不思議、という程の話でもないが、成人を迎えても肉体の成長を続ける人物はよく見られる。かたや、高校入学時にピタッと図ったかのように169.9cmで身長の伸びが止まってしまう男子もいれば、この選手のように16歳でデビューして以降、四年に渡るボートレーサー生活で2㎝以上背丈が伸びてしまった女子もいる。生田波美音選手(20歳/B1/東京/124期)である。

レーサーとして不利になるばかりだが…

2023年4月8日現在、生田選手の公称身長は167cm、体重50kgとなっているが、デビュー当時は165cmで、出走時の体重も50kgに届くことなど無かった。男子レーサーの最低体重が52kg、女子のそれが47kgとされているボートレース界において、肉体的にか弱く見られがちな女子が男子に唯一絶対に優位に立てる点として、この体重差があるわけだが、現在の生田選手は、この優位を自ら放棄せねばならぬ程の巨大化を遂げている。

<デビュー節との比較。遠近差があり見辛いが、明らかなボリューム増が伺える>

大袈裟に書いたが、勿論、日本人女子として167cm50kgは決して太りすぎではない。むしろBMI値で判断すれば痩せすぎの部類である。しかし、ことボートレーサーという特別な職業に身を置いている存在と考えれば、この重さは看過できないだろう。

生田選手と同じ東京支部の先輩で、同じ女子、さらに同じ167cmの背丈があるという、まるで生き写しであるかのような選手がいる。それが下に掲げる選手で、2023年4月8日現在はなんとA1級。その体重は48.1kgである。

<BOATRACEオフィシャルウェブサイトより>

個体差がある為もちろん大きな雑言を吐くわけにはいかないが、生田選手は諸々の努力を惜しまず全力で致さなければならない立場なのだなと痛感させられる。

男女差を乗り越えるのは箱根の山越えどころの騒ぎでは…

別に体重があろうが活躍している選手はいるし、場合によっては「ヘビー級王者」だのなんだのと冠を付けて重量級レーサーばかりを集めた節を開催する場もあり、ともすると有利にも働くことがあろう。しかしここで問題になるのは、生田選手はあくまでも女子だということで、古来から語りづづけられている競艇界の常識として男子よりも弱い、という点である。男子連中との混合戦の成績は、全くもってパッとしないのだった。

<艇国データバンクより。2023年4月8日までにおける生田選手の生涯成績>

上掲の通り、混合戦でのボートレース勝率は3点に届かず、1着に絞って見てみると勝つ確率は女子戦の半分以下である。スタートでも後手を踏むことが多く、混合戦に出場する利点など皆無なのである。典型的なB級女子選手、といってしまえばそれまでだが、50kgを超え女子の中でも不利な立場に追いやられがちな現状下においては、ノビシロ、将来性、一筋の光明いずれも無さそうな雰囲気を漂わせるデータである。

遡ってみると、生田選手が勝利を収めた男子との混合戦は、昨年11月15日に地元平和島で一号艇一コースの恩恵を受けてのものが最後、それ以外の定番でいえば、同じく昨年10月23日の地元多摩川における一般戦が最後であった。つまり今年は未勝利ということである。既に桜も散りつつあるのにだ。

重く、不器用な日々。

2023年4月8日。男子選手顔負けの体重を引っ提げた生田選手は、ボートレース三国おいて開催中の一般レース、「日本トーター杯」に参戦していた。悪天候による順延を挟んで開催三日目を迎えるにあたり、低調モーターを手にした生田選手におけるこれまでの成績は最低最悪の一言に尽きる。何しろ出走機会三回全てが6着。初日の二走目に至っては一号艇に配されていたのにも関わらず、前付け趣味のあるベテラン選手に抵抗した結果、回り直しての六コース進入と、チャンスを半ば自ら棒に振っていた。

<犬も歩けばボートに当たるチャンネルより>

体重も男子最低体重を1kgも上回っている体たらくで、あの連敗女王、令和の大和たる大鑑巨砲白石有美先輩(24歳/B2/東京/118期)の近況にいよいよ迫りつつあった。

<BOATRACEオフィシャルウェブサイトより。2023年4月8日の白石有選手。尚、この日はボートレース福岡で一回走って五号艇五コースから最下位入線>

この状況下で……勝ちます。

モーター性能の悪さもあって、今節は舟券師の誰もが期待しない状況下にあったわけだが、しかし、ボートレースのギャンブルらしさが炸裂し、三日目二回走りの一走目、このメンバー相手に生田選手は勝ち星を挙げ、当然ながら万舟配当をもたらしたのだった。

<BOATRACEオフィシャルウェブサイトより>

ご覧の通り、ボートレース三国主催者による、地元A級選手を勝たせるためにお膳立てされた面々といった構成である。一号艇に配されたそのA級選手はここまで四回走って舟券絡み三回、うち一勝を挙げており、正直こんな優遇レースを組んであげる必要などないのではないかと県外の者としては思い当たり得るのだが、そこは北面の日本海福井である。生活する人々の価値観や考え方は、日の当たる太平洋側、特に日光を遮る高い山々もない関東平野の東京者によるモノの見方とは大きく異なるものがあるのであろう。

何れにせよ、近況から三号艇生田選手の舟券絡みは絶望視されており、オッズ表を見るにつけても、その酷い扱いが如実に表現されている。

<BOATRACEオフィシャルウェブサイトより>

当然ながら生田選手アタマの舟券は全て100倍超えであるが、それは生田三号艇よりも外から出発するであろう四、五号艇の評価よりも確実に悪いのだった。4-1-2は61.7倍、5-1-2も93.2倍とギリギリながら100倍の大台を踏んではいないのである。因みに、生田選手の最安値配当は3-1-2の120.9倍であり、これがそのままレース結果へと反映されることになる。

2着付けに絞っても、生田選手の評価は芳しくない。1-2-4が4.5倍と圧倒的に人気を集めており、続いて1-2-5、1-2-3と二号艇の2着に分厚い高評価が固まった後、次は1-3を飛ばして1-4-2が11.5倍の四番人気評価を受けている。その次はアタマが変わっての2-1-4が五番手評価の17.4倍で、生田選手が2着にしがみつく1-3-2がようやく20.8倍の六番人気で顔を出し、その後はまた1-5-2、1-4-5、1-2-6等と、生田三号艇外しの舟券が売れていくのであった。

しかし、この低い評価を謎の幸運と水運とでぶち破っていくのがボートレースの醍醐味であり、真実である。生田選手は.17の無難なスタートながら、やや後手を踏んでいた内側の二艇を抑え、捲り切り、勝ってしまったのだ。特に一号艇A級選手に対しては、息もピッタリ、計ったかのようなツケマイで、凡そ6着三連発の憂き目に逢っている絶不調のレーサーとは思わせぬ、抜群のパフォーマンスだった。

<上下全てBOATRACE BBより。トップスタートは五号艇であるが、やや凹んだ内側から見ていくと三号艇が優位に立ち回れそうな形のスタートスリット>
<早速内側の二号艇へ幅寄せし、その進路を阻む赤い三号艇生田選手>
<ターンマーク手前に至っては一号艇の右翼へと迫り…>
<そのまま綺麗なツケマイ。見事に自身の引き波へと一号艇を陥れた>

何故、勝てたのか。

一体何が起こったのか。今までの戦績は何だったのか。呆気にとられる舟券師達は多かったことだろう。このレースにおける生田選手について、唯一の買い材料といえば、彼女は負けん気が強く空気を読まない、という点であった。地元の選手を勝たせる為に早朝から寄せ集められたB級選手として、その暗に課せられた役割は、もちろん一号艇の選手を勝たせることであり、つまりは自分が後塵を拝することである。生田選手が開催者側によって仄めかされた意に従うかといえば、絶対に従わない。ここだけが、この闘争心だけが、舟券の検討に際してプラスに働く要素ではあった。

とにもかくにも、生田選手が今年初の混合戦勝利を手にしたことは、おめでたい出来事ではある。しかしながら、男子相手の戦いでは未だB2級、ともすれば引退勧告が出されても可笑しくないボートレース勝率であることに変わりはない。女子戦で点数を稼いでいくしかないとも思わせるが、一方で体重は男子選手と遜色ない、むしろ彼等と比してもやや重めのレベルにまで達しつつあり、前途は明るいとはいえない。

今回のツケマイが、復調の兆し、もしくは二十歳を迎えて垣間見られたさらなる大成長の一端、と前向きに捉えられるようなものであるのか、それとも水上の女神が齎したちょっとしたフロックなのかと問われれば、どうにも後者の雰囲気が漂う。

いずれにせよ、まずは同支部の同身長の、しかしA1級の48kg台の先輩の背中を追うことだろう。男子の師匠を持つのは技術の相伝において実に素晴らしいことであるが、彼らに月経は来ないのだ。


労働階級からの解放を志し、収入のアテもないのに突然脱サラ。後先考えないその姿勢に後悔しきり。

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