多摩川フレッシュルーキーの二つ名が聞いてあきれる。元最年少女子レーサーの生田波美音選手(B1/20歳/124期/東京)は、初優出を成し遂げるにあたりこの上ない絶好条件下にあったのにも関わらず、殆ど活躍出来なかったのである。
最も走りやすく、親しみ深い、東京の田舎。
2022年10月23日。ボートレース多摩川では男女混合の一般戦、第6回 SBIネット銀行賞が開催最終日を迎えていた。遡ること約三年、師走も師走、なんとその年の大晦日にこの地でプロレーサー人生初の勝利を挙げた生田選手は、その後も同じ東京にある江戸川、平和島よりも多くの出走機会をここ多摩川で得て、前日までに積み重ねた通算41勝のうち実に8勝を当地で挙げていた。慣れ親しんだこの静水面での出走は今回が実に10節目。全24場で最多の斡旋である。

頑張れ、強いぞ、モーターの仲間。
そして、区切りとなる一節に相応しい大幸運として、開催前日のモーター抽選で生田選手が所謂超抜モーターである22号機を引き当てたことには特筆せざるを得まい。今年五月から使用を開始して、既に優勝を4度も経験しており、何より驚くべきは、これまでの13節で、実に11節も優勝戦に絡んできているという、非常に高いレベルで安定した成績を持つ、お化けモーターであった。


ボートのモーターの性能の差は、航力の決定的差ではないことを教えられた。
推しに推される地元のフレッシュルーキーという肩書、そして文字通りに図抜けた超抜モーターを配されるという、これ以上の天運は見込みにくい程のお膳立てがあって、しかも颯爽と一号艇での開幕を迎えた生田選手は、しかし、初走で2着に敗れた。
その後も全くパッとせず、5、4、4、6、5、6着と、何色のカポックを着ようが舟券に絡むことなく、本当に優出常連のモーターを取り付けているのか、人的ミスによる取り違えでも疑いたくなるような体たらくだった生田選手。勿論予選の突破など夢のまた夢。一般戦のゴミ掃除を繰り返しつつ、最終日を迎えたのだった。
二回走りの一走目は5コース五号艇から。好スタートを切った四号艇のお零れに預かるかたちながら、初日以来の2着入線を果たし、復調の兆しを見せる。そして、泣いても笑っても最後の一走。この後のレーサー人生で、あと何回このような絶好モーターを手に出来るのかわからぬ、もしかしたらこれが最後となるかもしれない、超抜モーターを携えての一戦を終に迎えた。
混合戦のA1選手入り、となれば勝ち味は薄いか…?

二号艇に鎮座する生田選手の内側にはA級選手が配されているが、外側の四人は全員がフライング持ちという状況だ。その中には節間3勝を挙げたA1選手もいるが、如何せん六号艇ともなれば勝ちには遠い。今節では二度緑色のカポックを纏ったものの、それぞれ2着3着となんとか舟券には絡んだものの、今走でも「勝つとなると…」と食指が鈍った舟券師達は少なくはなかった。

ということで、人気は無難に一号艇のA級男子へ集まることとなるが、注目は2着であった。つまり、艇番通り順当に1-2なのか、それともF持ちとはいえ生田選手の同支部の先輩が駆る三号艇に分があると睨んでの1-3なのか、というところである。上表から明らかであるが、一番人気は1-3-6の6.6倍で、なんと化け物級の超抜モーターを操舵する生田選手を完全に蚊帳の外とした舟券であった。二番人気こそ1-3-2だが、それでも二号艇は3着付けであり、生田選手が艇番通りに2着入線を果たす、ボートレース界で最も決まりやすい3連単である筈の1-2-3は、10.1倍の三番人気に過ぎないのだった。
如何に今節の生田選手が舟券師たちを落胆させてきたのかが残酷な程に示されているが、続く四番人気こそ1-2-6と面目を保ったものの、五番人気は1-6-3、六番人気も1-3-5と、またもや生田選手が弾かれた順列が上位人気に推されているのだから事は深刻である。
唯一の希望は、前述の通り、一走目で5コースからの2着入線という、超抜モーターらしさをもしかしたら掴んだのではないか、と思わせるにギリギリ足らなそうな、いうなれば地獄に垂らされた一筋の蜘蛛の糸の如き競走成績が残されていたことであった。
蓋を開けてビックリ。超抜、目覚める。
レースは、大方の予想通り、フライングを気にする艇たちが軒並み低調なスタートを切ることから始まった。トップスタートは当然の如くA級一号艇で、このまま何の事件も無く、1-2もしくは1-3の舟券で決まるのだろうと、スタート数秒後の誰もが想起していた。

しかし、A級といえど、この選手は今節は四日目に一号艇からまさかの最下位に敗れていた。その苦い思い出が後引いたのか否か、最初のターンマークで他艇を引き離すことが出来ず、あろうことか三つ巴の大激戦を招いてしまうのだった。
好スタートから先に回ろうとする一号艇と、それを差す生田二号艇、捲りに行く同支部の三号艇と、非常にスタンダードな隊形で一マークを迎えた艇団。しかし、三号艇を警戒した一号艇が外へ張ったところ、三号艇は素早く目先を変え、捲り差しの態勢に転じた。即ち、一号艇の外ではなく、内への差し込みを企図したのだ。B級戦士侮るなかれ、好判断と的確な操舵であった。



これがズバッと切り込まれ、下掲の通り、向こう正面では三艇が横一線。互いのボートをゴトンゴトンとぶつけ合っての押し合いへし合い。まさにデッドヒートの様相を呈したのである。

位置関係としては一号艇に分があるようだが、三号艇の舳先がかかり、その三号艇には生田二号艇の舳先が掛かっており、一号艇とは一艇身の差がありながらも、二号艇にも充分勝機が見える態勢のまま、二マークを迎える。ここからが超抜モーターらしさであった。


最内から臨む生田選手は、張るでも差すでもなく、非常にコンパクトに小回り旋回を決め、かといってツケマイに行った三号艇の引き波に沈められることもなく、スタンド前でもラップ状態を維持することに成功したのだ。
直線では減速せずに外へ出した分、三号艇の方が半艇身ほど前に出ることになったが、次のターンマークでも生田選手とお供のモーターは息の合った旋回を見せつける。


今度こそ、と捲りに来た同支部の先輩から発せられが無言の圧力に全く構うことなく、同じく小回り旋回で急加速、一気に抜け出したのだった。機力がなければ簡単に包み込まれてしまうところだが、二度も内々を回って出し抜いているのだから、このモーターはやはり凄い。
なんとも哀れで期待外れな一節。
かくして、その後の攻防も凌ぎ切ってようやく勝利を掴み取った生田選手だが、これを手放しで喜ぶことについては苦言を呈したい。勿論、先輩に花を持たせないその振舞がいけ好かない、というような前時代的な要件ではない。
まずもって、モーターの出力と自身の操舵能力をすり合わせるのに、ここまで時間がかかってしまうようでは、優出など望むべくもないではないか。A級到達などもってのほかである。
繰り返しとなるが、今節は今後二度と訪れることのないかもしれぬ大チャンスであった。その筈であった。それが、初日の一号艇における勝ち星こぼしから始まり、予選では下から数えた方が早いような順位で脱落、最終日になるまで一向に、見せ場はおろか、上がり目を見せることも出来なかった。これは猛省すべきところだ。
ピット離れが安定してきた昨今、これからの課題は専ら整備力の向上となるかもしれない。最も、初日から生田選手の操舵法とピッタリ合う状態になっていたモーターと巡り遇うことが出来れば、それが優秀な機器でなかったとしても、鬼神の如き活躍を見せる可能性もあろうから、全く侮れない。今後も要注目な選手ではある。
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