老いてますます盛ん、並み居る後輩たちの引退を見届けつつ、柴田善臣騎手(58歳/東/フリー)は10月初旬以降コンスタントに騎乗を続けている。先週に限らず、勝利時の新聞記事ばかりが目立つが、老いて記録男となった氏は、もはやその一挙手一投足が新記録となっていることを忘れてはならない。パドックで跨る度に中央競馬の騎手免許を持つ者としての最高齢騎乗が達成されるし、馬場に入れば最年長入場、ゲートが開けば史上最高齢でのレース参加である。これが、毎度毎度、柴田善騎手によって必ず成し遂げられているという途方もない現実について、多くの人々は気が付くことすらなく日々を過ごしているのだ。
二週連続の一番人気騎乗、そして勝ち星

2024年11月10日、日曜日。前日の土曜は東京で四鞍、この日は福島で三鞍と、柴田善騎手はその年齢に見合わぬ堅調な騎乗依頼を受け、しかもその内訳には重賞競走が二つきっちり約束されているという、まさに引っ張りだこといっても過言ではないと断言したくもなる可能性のある扱いであった。そして自身何度目、いや十何度目、否何十度目かの、現役中央競馬騎手における最高齢の馬場入場を達成し、レース参加も成し遂げ、そしてこの日は勝った。
隠れたトンデモ馬名。
ヒットミー(父シニスターミニスター/東・鹿戸厩舎)は、この日にデビュー戦を迎える2歳牝馬であった。馬名の由来は「当たる+私」であるらしいが、ミーはmeであり、目的格だから正確には「私を」の意となり、英文としてそのまま読むことが出来てしまった”Hit me”は「私を叩いて」という命令文だ。

そんなドマゾ牝馬の目出度い初出走は、6Rの2歳新馬「メイクデビュー福島」、ダートの1700m戦であり、高い素質が評価されたのか、はたまた鞍上を務める柴田善騎手の類まれなる手腕が耳目を集めたのか、2.5倍の一番人気であった。
初戦向きの牝馬らしい、やる気に満ちた走り
発走直前までゲート内で脇見をしていたヒットミーだが、ふと正面を向いた直後、発馬機の扉が音を立てて開いたことが功を奏し、同馬は颯爽と飛び出し、先行、そのまま先頭の座を取り切って逃げの手に出た。たまたま良好なタイミングで扉が開いたのか、それとも柴田善騎手が歴戦の勘でもって扉の開きを読み計り、直前でヒットミーの気を引いたのか、何れにせよ僥倖たる滑り出しであった。
その後は快調にマイペースで逃げ続けたヒットミーと柴田善騎手。能力差によって格付けされていない新馬戦らしく、先頭で走る同人馬から最後方まではなかなかに縦長の隊列となったが、そこは鞍上が大ベテラン、一切の戸惑いを見せることなく、最後の直線を迎えるまで手綱は持ったまま、非常にスマートな乗り味であった。


直線に出てもヒットミーの脚色は一向に衰えず、ついに一度の鞭もその脾腹に入ることなく人馬はゴール板を通過した。新馬らしくあっちへフラフラこっちへヨレヨレと、といった浮ついた動きもなく、それだけに他馬の付け入る隙が一切生じない、まさに完勝であった。
パフォーマンスは圧巻だったが……
ヒットミーと懇願しながら、その望みが果たされることはなかったわけだが、陣営としては勝てれば良かろう。今後さらなる活躍に期待感は高まるばかりだ。ちなみに、同日に福島ダート1700m戦は三つ行われたが、いずれも格上組の戦いとはいえ、勝ちタイムはヒットミーのものより1秒以上速いため、今回のヒットミーが図抜けて大物かというと、そうでもないことには留意を要する。
いずれにせよ、これで今年における柴田善騎手の一番人気時勝率は.272まで上昇した。まだまだ物足りない。あと一勝で年間二桁の勝ち鞍数となるが、またも一番人気で達成できるのか、どうなのか。注目だ。