短期放牧から戻った柴田善臣騎手、復帰二週目に高素質馬で勝利!


連日うだるような暑さが続く日本列島。特異な気圧配置が織り成すこの気候は、列島の真東がら台風を直撃させるという奇抜な振舞も見せて我々人類を翻弄する。

働くには暑すぎるから、盆休みがある

そんななか、競馬界の大重鎮、柴田善臣騎手(東/フリー)は、2024年7月末、58歳の誕生日を迎えるにあたり、二週間の休養を宣言し、馬場から姿を消した。

<日刊スポーツより>

まずベテランが率先して休むこと。これが成って初めて、下々の連中が大手を振って休暇を取れるようになるものだ。先頃、リーディング最上位常連の外国人騎手が休養をとったことに端を発したお休みブームであるが、氏が乗っかるのは極めて真っ当かつ適切な選択である。むしろ最年長騎手として、当該外国人騎手よりも早く宣言すべきですらあったとの考え方もあるが、ここ数年の柴田善騎手は、負傷によりターフを離れていた期間がちょくちょくあり、不可抗力的に休養が取れてしまっていたから、辛口な指摘をするには値しないだろう。休暇期間は新盆にも旧盆にも掛からない、しかし巴里五輪の開催期間を殆どカバーできる二週間であった。

休んだことが仕事に影響しない、良い老い方。

さて、英気を養って復帰を果たした柴田善騎手だが、勿論、勝手に休んだことを以て騎乗依頼が減少することなどあろうはずもなく、週に数鞍の乗り馬を確保し、戦場に舞い戻って来た。

2024年8月18日、復帰後の、そして58歳となった柴田善騎手としての初勝利が達成された。休養明けから僅か8レース目での最年長勝利記録更新となった。

陣営も騎手も期待する、色々と背負わされた素質馬。

勝ち星を一緒に掴んだのは、あのピースワンデュック(牡3歳/父グレーターロンドン/東・大竹厩舎)であった。デビューから柴田善騎手のみを乗せ、全3戦、2勝2着1回。連勝で2勝クラスに上がって来たばかりであるが、その勝ち方は劇的に力強い。2戦とも、直線が長く追い込み有利といわれる東京競馬場で、テンから終いまで先頭を譲ることなく逃げ切ったのである。

本走もその圧倒的な振舞が評価され、一番人気の座こそ無敗の同期馬に譲ったものの、並み居る歴戦の古馬たちを押し退けての二番人気の支持を集めたのだった。今回の舞台は連勝した東京と同じ左回りの新潟競馬場で、距離は勝ち星のついた芝の2000mと2400mの中間となる2200m、阿賀野川特別であった。新潟芝2200mは、馬場を一周強する距離設定であり、ここまで逃げの一手で勝ち進んできたピースワンデュックにはお誂え向きである。馬券師の誰もが、同型の逃げ馬との兼ね合いを予想し、競り合った場合の展開に思いを巡らしたことだろう。

競馬もボートもスタートが大事。

ところが、であった。競走除外馬が出て発走が二分遅れた影響があったのか否か定かではないが、いずれにせよ、発馬機が開くと同時にピースワンデュックは体勢を崩し、出遅れてしまったのである。

<JRAの公式動画より。10番ゲートから飛び出したピースワンデュックの上体と後肢が大きく捻じれているのがわかる>

この瞬間、これまで柴田善騎手とピースワンデュックがとってきた先手必勝の逃げ、という作戦は潰えたのだが、鞍上にはそれが理解できても、まだ3歳、高校三年生ほどの向こう見ずな若さに満ちたピースワンデュックには難しい。後れを取り戻そうと必死になって前へ前へと行きたがってしまう。

<上下二枚ともJRAの公式動画より。画面中央付近の緑帽子と黄色めの服を着させられたのが柴田善騎手。それぞれ発馬から200m強、400m強を進んだあたり。他馬との比較で自明だが、前に行きたがるピースワンデュックを引っ張って抑えている為、馬の顎は上がり、騎手の足は前へ投げ出されたような形で突っ張っている>

若く前向き過ぎる気性が仇となり、柴田善騎手が前に他馬の壁を作らせて懸命にブレーキをかけ、折り合いを図るも、実に一角を回り二角に至るまで、ピースワンデュックは鞍上の指示に抗い、捕手のサインに意地でも頷かぬエース宜しく嫌々と頭を振り回してしまったのだった。

結果的に中団の好位置につけて折り合うことには成功したが、ここに至るまでの経緯はアクセル全開でサイドブレーキを引いているようなものであった。馬のスタミナは無用に消耗し、何よりピースワンデュック自身のやる気も大いに削がれてしまうことから、向こう正面の戦況を見守る馬券師たちの多くが、六枠10番の馬券を握り潰しそうになったことだろう。

しかしピースワンデュックの能力は、2勝クラスの特別戦に収まるようなものではなかった。三角から徐々に進出を開始、後続馬をやや置いて行く形をとり、その為に四角では他馬に外から被せられることなく、スムーズに人馬の進路を確保する、という馬の力を信頼した柴田善騎手のさりげない上手さに助けられた高素質馬は、鬱憤晴らしの激走を見せたのだ。一番人気馬の外にピタリとつける、というのも柴田善騎手の計らいだが、一緒に猛然と追い上げる事で逃げ馬を捉え、最後の最後で一番人気馬をもハナ差で躱し切ったのは、ピースワンデュックの持っていた運と力の併せ技だろう。

<上下三枚とも、JRAの公式動画より。四角を回って最後の直線。柴田善騎手とピースワンデュックの外には何もいない>
<残り200m付近。ゼッケン6番を付けさせられた馬が同い年の一番人気馬。その外へピタリと付けて、逃げているやはり同い年のゼッケン13番馬を追う>
<一番人気馬と切磋琢磨しながら、ゴールの数m手前で逃げ馬を躱し切る>
<JRAホームページより>

強い、逃げても差しても強い。強い。

こうして、前半800m程度までは展開、人馬の交信ともに壊滅的な状況であったのにも関わらず、馬の力を信じ切った柴田善騎手の差配と、それに応えたピースワンデュックの力強い激走により、コンビの四戦目は見事な差し切り競馬となった。ピースワンデュックは3連勝。さらに怪我の功名で控える競馬でも計算が立つことが証明された。

菊花賞へ向けての展望はより大きく晴れやかに開けた形となったが、依然として懸念材料は、右回りの競馬場で未だに走ったことがない、という点であろう。菊花賞は右。事前に右回りである中山競馬の九月開催を挟むのか、それとも3勝という賞金実績で直行するのか、陣営の判断が気になるところだ。

柴田善騎手はこれで本年5勝目。昨年の9勝を超えるペースにはまだない。せめて絶不調といって良かった2018年の7勝という数字は乗り越えて貰いたい。そして最年長G1勝利記録の更新も、と願うのは決して贅沢ではないだろう。


労働階級からの解放を志し、収入のアテもないのに突然脱サラ。後先考えないその姿勢に後悔しきり。

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