上半期芝G1戦線の総決算にして、ファン感謝祭の側面も併せ持つ西の大祭典、宝塚記念が無事に終了した。二年前のクラシックを分け合った三傑やその前年のダービー馬など、出走12頭のうちG1ホルダーが半数を占めるという好カードのなかで、勝ったのは紅一点にしてメンバー唯一の牝馬限定G1ホルダー、八枠12番のリスグラシューであった。
桃色帽子の雌馬が前を優しく包み込む
二つ目のG1タイトルを手にしたリスグラシューの鞍上は、短期免許の若手騎手であった。彼もまた、日本競馬界で二つ目のG1タイトルを手にしたこととなるわけだが、唯一の牝馬、それも小回りコースの大外枠へと配されたにも関わらず、リスグラシューは三番人気の支持を受けており、如何に彼への期待感が高かったのかが透けて見える。
彼はその支持に応えるべく、スタートから最初のコーナーにかけて先頭へ並びかけ、そのまま二番手でレースを進めるという冒険に出た。元来は中団よりやや後ろでレースを進めてからの差し切りを狙う寸法で戦ってきた馬が、突如として先団、それも逃げ馬のすぐ後ろにつけることとなったのだ。馬自身も内心驚いたのではないだろうか。

「12頭立てなら大外を回らされる心配がないはず」という陣営の目論見を嘲笑うかのごとく、大外枠発走となってしまった本馬。大外を回らずにコーナーへ突入するには、スタート直後の横一線状態から前を譲り後方につけるか、無理を通して前に出て、内枠の馬より先に内ラチ沿いを目指すしかない。もともと後ろからの競馬で好走してきた本馬としては、誰しもが前者のプランを採りそうなところだが、短期免許騎手はここで逆張りに出たのである。
これが見事に大当たりで、逃げるが勝ちを身上とする馬の作り出す落ち着いたペースの中を虎視眈々、前々で楽々と追走し、直線に入ってからスパートをかけ、すぐさま逃げ粘りを得意とする馬を抜き去り、突き放してのゴールインとなった。終わってみれば、先行抜け出しというダイワスカーレットばりの横綱相撲であり、それまでの本馬が持っていたイメージからはかけ離れた、豪傑そのものの勝ち具合となった。

またも2着。父の血が濃いか
2着に逃げ粘ったのが、一枠1番のキセキである。逃げ馬に相応しい白い帽子、絶好の最内枠からの発走であり、二年ぶりのG1制覇を期待されての一番人気であったが、前走に続いて2着止まり。逃げられなかった前走とは違い、今回は不細工な出足ながら、もしかしたら周囲の助けもあって、無事に先頭を奪うことに成功した本馬。にも関わらず、大外から詰め寄って番手に控えた勝ち馬によって、見事に足元を掬われた。

思えば「父に似てきたね」とはどれほど残酷な評価だったのだろう。本馬の父ルーラーシップによって達成された、宝塚記念2着の後の、天皇賞、ジャパンカップ、有馬記念と連続3着を記録するという類まれなる善戦マンぶりが、G1連続2着となった本馬へと確実に遺伝している。もはや国外での大金星を期待するしかないのだろうか。
勝ち馬に誘われ、うまく先行か
3着には、六番人気ながらその倍率は8.8倍と、そこそこの支持を集めていた八枠11番のスワーヴリチャードが入った。勝ち馬をマークするかの如く、ピッタリと後ろに付き従って先団で道中を過ごし、直線ではその勝ち馬に残念ながら突き放されたものの、後続は振り切った。
前走の疲労が著しかったものの、放牧先で「うまくケアしてくれたので」なんとか「力を出せる状態に持ってこられた」という状況を考慮すれば、大健闘したといっても過言ではないだろう。次は勝つか。
前走で九番人気を覆したアレは、フロックか?
4着はアルアイン。数ヶ月前に阪神競馬場のG1を制したばかりだというのに五番人気へと甘んじていたが、妥当な結果となってしまった。こちらも先行からの粘り込みである。「走り辛いとやめる面を出すので雨はなるべく降らないで欲しい」と言われていたが、当日は良馬場に恵まれていた。こうなると、「前回は状態も良かったが、ブリンカー、枠順、展開などが噛み合った」という言葉に重みが出てきてしまう。三つ目のG1タイトルは遥か遠くにあるのか、ないのか。
馬の気持ちはわからん
掲示板の末席に滑り込んだのは、二番人気に支持されていたレイデオロであった。逃げ馬へ道を譲り、中団も中団、ど真ん中の最内でレースを運び、差し抜けを狙ったが、スローペースで進んだ道中から4コーナー付近で先行勢の加速が始まり、すぐにムチを入れて喰らいつくも、追い抜くには至らなかった。「力通りなら楽しみ。平常心で臨めればね。」と言われていたが、本馬が果たして平静な心持ちでレースに挑めていたのかどうか、素人にはわからない。力通りの入着なのか、ご乱心による敗退なのか。
人気を全く裏切らなかった唯一の馬は
人気どおりの着順となったのはたったの一頭。何を隠そう十二番人気で最後尾入線となったタツゴウゲキである。第59回宝塚記念でブービーの15着となって以来、ぴったり一年ぶりの実戦が本走では、この結果も致し方あるまい。残酷な物言いではあるが、トウカイテイオーとはモノが違うのである。二年前にG3を連勝していた程度の馬だ。
11着馬の10秒後、六馬身差の入線であったが、パっと見では去年の成績より良化しているように感じられるのが、せめてもの救いかのようで、少しだけ面白い。何しろ、頭数の減少に影響されて15着が12着、2分14秒6だった時計は0.5秒縮まって2分13秒9となり、最後の600mに至っては38.9秒もかかっていたのが、1.4秒も短縮して37.5秒となっている。切れ味強化も甚だしい。まるで一年間修行を積んでいたかのような成長振りである。
もちろんこれは、昨年の宝塚記念がヤヤ重の馬場で開催されていたことが影響しているもので、決して本馬が劇的に成長したわけではない。これから始まる夏競馬のG3戦線での華々しい活躍を期待したい。
なんだか強さへの説得力がない
記念すべき60回目にして令和最初の宝塚記念は、実にアッサリとした、いわゆる前が止まらない競馬となった。スタートからなるべく前に行った馬がそのまま押し切るという、テン良しナカ良しシマイ良しを地で行くような、昭和中期の風情すらも感じさせる内容である。それだけに、上位へと入線した馬は本当に強いのか、もしくは、負けた馬たちは負けるべくして負けた弱者なのか、いまいち判断し辛いのであった。
秋以降の馬券予想に役立つとは、少し思えないのだ。
