ファン投票で出走馬を決めようという、雑草の夢が詰まった春のグランプリ企画も今回で60周年となる。2019年6月23日の本開催をもって本年上半期のG1戦線が終了し、人馬共に煮崩れてしまいそうな猛暑へと突入することとなるのだ。
節目の一戦だが、フルゲートを割って少頭数での発走となることが多々ある本走。本年も、薬物問題のゴタゴタとは関係なく、12頭での戦いとなっている。少頭数のレースは、多頭数のようにゴチャゴチャすることがないため、紛れが少なく固めの決着となりやすいと言われるが、そこは阪神2200mという、距離も形もいびつそのもののコース形態が、波乱の目を演出してくるのだから油断ならない。過去10年間で一番人気馬はたったの2勝、それも三冠馬オルフェーヴルと、史上唯一の連勝馬ゴールドシップによるものである。
果たして今年の一番人気馬に、両馬ほどのカリスマ性が備わっていると言えるだろうか。日刊競馬、勝馬、競友の三紙の厩舎情報から、上位入線する穴馬を探してみて頂きたい。
一枠1番:キセキ(牡5・川田将雅・西)
辻野助手=「前走後は吉澤ステーブルWESTへ。約1ヶ月前に帰厩し、ここを目標に調整。筋肉の付き方や体の張りも申し分ないし、父に似てきたね。昨秋以降は精神面で完全に一皮むけた感じがある。今週は素晴らしい動きで、確実に上向いてきた。良い状態に持ってこられたと思うので、あとはレースでリズム良く運べればね。前走は他馬が行く構えを見せていたので控えたが、当然ハナを切っても問題ない。今の充実ぶりなら期待を持って臨めるよ。何とか好結果を出してほしい。」
<のじ山の雑感>前走の大阪杯では、四枠6番から平々凡々たるスタートで、内側の逃げ馬に前を譲って番手に控え、そのまま2着に粘りこんだ。当時は、馬体の「太目感はない。力を出せる態勢」に過ぎなかったなかでの銀メダルであったが、今回は「ここを目標に調整」してきたということだから、「好結果」とは即ち完全勝利ということに他なるまい。小回りの最内枠。逃げ切りがあるか。「似てきた」という父はルーラーシップで、20回走って掲示板を外したのが僅か2回のみ、それもドバイシーマクラシックと有馬記念というG1の中のG1と呼べる競走でのもので、しかもそれぞれ6着というのだから恐るべき安定感を誇る名馬だ。しかし、全8勝のうちG1は香港で手にした1勝のみで、国内では善戦マン的存在に留まっており、本馬が「似てきた」となると不安は募る。連軸とするのが賢明か。
二枠2番:レイデオロ(牡5・ルメールクリストフ・東)
津曲助手=「ドバイ遠征の前走はナイトレースだったことが影響してか、当日はパドックでイレ込んでしまい、この馬の力を出し切れなかった。検疫後は天栄で放牧してから帰厩した。暑い時期なので体調に注意を払いながら調整してきたが、しっかり立て直したのでフットワーク、操作性は問題なし。いい状態でレースに臨めそうなので巻き返し期待。関西への輸送は経験済みで問題ないし、渋った馬場もこなせる。力通りなら楽しみ。平常心で臨めればね。」
<のじ山の雑感>前年に引き続いて今年もドバイシーマクラシックに挑戦したが、10頭立ての4着であった前年に対し、前走は8頭立ての6着と、成績を落として帰って来た。「ナイトレースだった」から「イレ込んでしま」ったというが、4着だった昨年も夜間開催であり、決して初体験なわけではない。本馬の物覚えが悪いのか、それとも「力を出し切れなかった」敗因、「イレ込ん」だ要因が他にあるのか、なんだか怪しいのである。いずれにせよ、パドックの気配に注目だ。
三枠3番:エタリオウ(牡4・横山典弘・西)
友道師=「天皇賞は2周目の坂上から真剣に走っていた。初めて一生懸命に走ったので疲れは見られたが、短期放牧でリフレッシュして問題ない仕上がり。横山典騎手が力をうまく引き出してくれれば。」
大江助手=「(天皇賞では)位置取りは後ろになりましたが、勝負どころで脚は使っていました。初めて本気で走りきったのでレース後は疲れが出ましたが、短期放牧で回復。追う毎にデキは良くなっています。これくらいの距離はちょうどいいし、どんなレースでもできるタイプ。発想力や実行力が豊かなジョッキーだし、この馬の能力をうまく引き出してくれたら楽しみはありますよ。」
<のじ山の雑感>最後方追走から、2周目の3コーナー付近、坂の下りから急加速、前にまくりかけてきての4着となった春の天皇賞。先頭へ急接近したあの走りについて、「初めて一生懸命に走った」、「初めて本気で走りきった」と陣営が揃って感動するのは少し面白い。それほどまでに扱いにくい馬だったのである。今回は、その本気にさせた騎手から乗り替わりとなっているが、東が誇る大ベテランに、期待も大きいようだ。「発想力や実行力が豊か」とは、まるで起業家に憧れる人達が読むような雑誌に載せられたインタビュー記事のようである。しかし、これまでほとんど一生懸命に走ったことがない馬だ。いかに百戦錬磨の策士といえど、ぶっつけ本番の初騎乗で、「力をうまく引き出してくれ」るのかどうか、やや不安が残る。
四枠4番:アルアイン(牡5・北村友一・西)
池江寿師=「前回は状態も良かったがブリンカー、枠順、展開などが噛み合った。内枠で終始、ロスなく運べたし、持ち味のしぶとさを生かせたのが大きい。中間も気難しい面は見せているけど、調整は順調。坂路で自己ベストが出たようにデキに不安はないよ。阪神は4戦3勝と好相性だし、コーナー4回の内回りコースも合う。ベストは2000mなので少し長いけど、距離は乗り方ひとつでこなせる範囲。ある程度までなら緩い馬場はこなすけど、走り辛いとやめる面を出すので雨はなるべく降らないで欲しいね。」
<のじ山の雑感>前走は、内目の三枠3番からそのまま先団に取り付き、九番人気の評価を覆してのG1勝利となった。今回もその一つ外の枠番に過ぎず、悪くない位置である。本馬が制したレースは、皐月賞、大阪杯と全て2000mであり、確かにこれがベストの距離なのだろうが、今回と同じ2200mでも、セントライト記念、京都記念、オールカマーの3回走って全て2着としており、決して不向きではない。「乗り方ひとつでこなせる」などとG1初勝利を決めて3ヶ月しか経たない騎手にプレッシャーをかけているが、そもそも3000m戦の菊花賞でも1着から0.8秒しか離されておらず、距離不安はないといっても過言ではない。問題は雨である。当日の天候は晴れの予定だが、蓄積された梅雨の水分がどの程度芝に染み込んでいるか。空模様や馬場状態の発表に惑わされず、他のレースから冷静に判断する必要がありそうだ。
五枠5番:タツゴウゲキ(牡7・秋山真一郎・西)
野田助手=「5月下旬に帰厩して、プールと坂路を併用してしっかりとやってきたが、先週あたりから急激に良くなってきた感じがする。今は脚元も問題なく、長期ブランク明けでも太めの心配はなく、それなりにいい状態に仕上がったと思うよ。G3戦とかならともかく、今回は1年ぶりの実践がG1だからね。いいメンバーが揃っているので正直、どこまで戦ってくれるか…になるね。」
<のじ山の雑感>昨年の宝塚記念で十六番人気からの15着となって以来、実に丸一年ぶりのターフ復帰戦となる本馬。「先週あたりから急激に良くなってきた感じ」ということは、先々週までは端にも棒にもかからなかったということだし、「それなりにいい状態」とは、一年ぶりにしては、まぁ、こんなもんかな、といったニュアンスに過ぎない。何より、「仕上がったと思う」という主観的発言に留めるあたり、状態は万全とは程遠いのだろう。
五枠6番:スティッフェリオ(牡5・丸山元気・西)
生野助手=「負荷をかけてしっかりと乗り込んで、先週の時点でほぼできていたし、調子はすごく良さそう。今週はジョッキー騎乗で感触を確かめてもらった。仕上がりは上々。前走時より間違いなく上だと思う。一線級相手に切れ味勝負になると厳しいが、持ち味であるしぶとさを生かす競馬ができれば。それでどこまで粘れるか…だろう。状態の良さを生かして頑張って欲しいけれど。」
<のじ山の雑感>「けれど。」という締め文句に多大なる絶望感が漂う。「掲示板には載れていいと思う。」と言われていた前走は7着で、その控えめな目論見すら果たせず。しかし、当「時より間違いなく上」というのであれば、今回こそは掲示板の目があるかもしれない。だがさらに上、馬券圏内となると、やはり厳しいのだろう。何しろ、繰り返しになるが、「頑張って欲しいけれど。」である。頑張れないことが明白であるかのようなのだ。
六枠7番:マカヒキ(牡6・岩田康誠・西)
友道師=「大阪杯は前が有利な流れでも、そう差のないレース。4着だからね。内容は悪くなかったと思う。いつも通り在厩して調整。調教量は十分だし、動きも良好。状態には自信を持って送り出せる。」
大江助手=「のんびりした性格で、放牧に出すと本調子に戻るまでに時間がかかるので、昨秋以降は在厩で調整しています。最終追いはムリせずに50秒台が出たしデキに不安はありませんよ。若い時とは馬の体つきが違うし、良馬場が理想ですけど、多少なら雨馬場になっても大丈夫。大阪杯は流れが向かない中で脚を使ってくれているし好レースを期待していますよ。」
<のじ山の雑感>最内枠の利を一身に受けて後方をスムーズに追走し、直線で行き場を探しながらも最後の600mを34.9秒という最速の上がり脚で駆け抜けて、十番人気ながら4着に滑り込んだ本馬。「悪くなかった」どころか、かなり良かったと断言していいレースぶりであったが、そこは3年前のダービー馬だ。陣営の意識と誇りはもっと高いということだろう。「デキに不安はありません」、「状態には自信を持って送り出せる」というから、3年ぶり2度目のG1制覇に期待がかかる。しかし、一枠1番で経済コースを楽に確保できた前走とは違い、今回は横一線の真ん中から発走することとなるから、後ろからいく馬とはいえ、全幅の信頼を置くには不安があろう。
六枠8番:ショウナンバッハ(牡8・吉田豊・東)
上原師=「(前走は)前残りの展開の中、良い脚を使って頑張ってくれた。上々の内容と言えるだろう。中1週となるので体力回復を重点に調整。直前の稽古は軽めで十分。8歳とはいえ引き続き好調キープという感じだね。今まで以上に相手は強力だが、終いの生きる展開なら出番ある。内回りなので4コーナー位から早めにふかしていく形になりそう。鞍上も手の内に入れているし、頑張ってほしいね。」
<のじ山の雑感>前走は直線の長い東京コースのG3で、後方から追い込んでブービー人気ながら4着を捥ぎ取った。最後の600mはメンバー最速の末脚を披露。なんと勝ち馬と同じ32.7秒で走破しており、その切れ味に衰えはなく、「8歳とはいえ」侮れない。しかし、「中1週となるので体力回復を重点に調整」しているという発言からは、バテてるオッサン、といったイメージがどうにもまとわりついてくるのだ。直線の短い小回りコースも性に合わなかろう。「手の内に入れている」鞍上が「4コーナー位から早めにふかしていく形」にうまく持ち込むのを祈るしかない。さらに、疲れがなく万全な状態である必要もあり、勝利への道のりは遠く果てない。もし勝てば、2015年11月の条件戦以来の勝利となる。夢のグランプリらしい夢幻の的中馬券が出現するか。
七枠9番:クリンチャー(牡5・三浦皇成・西)
宮本師=「天皇賞の結果がひと息だったが、状態は良かっただけに、気持ちの方の問題だと思う。このレースを目標に放牧へ出さず厩舎に置いて調整を進めてきた。先々週、先週と2週続けてコースで追って今週は坂路でやるいつものパターン。ここまで予定通りのメニューを消化して、引き続き気配は良好。いい状態で出せるよ。体調は問題ないのでメンタル面がどうかだけ。今回はもう少し積極的にレースを運んでもらうつもりで考えている。ちゃんと力を出し切ってくれたら。」
<のじ山の雑感>「京都コースは堅実に走る」と豪語していた春の天皇賞で、四番人気を背負って10着となり、雄姿を生で見ようと京都競馬場に詰め掛けたファンを愕然とさせた本馬。中団より後ろでレースを進め、そのまま全く見せ場がなかったことを気にかけてか、「今回はもう少し積極的に」という指示を出すらしいが、前走の敗因が「気持ちの方の問題」だとすれば事は深刻だ。序盤から積極的に前へ進めるかどうかがもう怪しい。だいたい「引き続き気配は良好」と言いつつ、「メンタル面がどうか」と言ってのける師の見立ては、どう考えたっておかしい。しかし、心理的な不安はふとしたキッカケで寛解することがある。本馬が突然復調する可能性は大いにあろう。それが今回か。その先か。
七枠10番:ノーブルマーズ(牡6・高倉稜・西)
宮本師=「メトロポリタンステークスが直前に雹の影響で中止になり、栗東に戻って再調整。鳴尾記念は仕切り直しの一戦だったが、上手に立ち回って5着と、見どころのある悪くない内容。ひと押しが利かなかったのは休み明けの分かなと思う。叩き上昇タイプで暑い時季も合うので、体調は本当に良さそう。スパッと切れないので、ある程度のポジションで運んで持ち味であるしぶとさを生かしたいところ。前進を期待したい。」
<のじ山の雑感>9頭立てのG3で、5,6番手で外々を進み、そのままなだれ込んで5着入線となった本馬の立ち回りは、素人目に決して「上手」とは見えない。「見どころ」といえば、直線で他馬に挟まれてもめげずに、力強く坂を上ってきたところだろうか。それにしても、「ひと押しが利かなかったのは休み明けの分かな」とは、休み明けでなければ確実に勝っていたかのような言いっぷりであり、褒めすぎの感があって失笑してしまう。しかし、本馬は昨年の宝塚記念で十二番人気からの3着入線を果たしているのだから、「前進を期待したい」という師の口ぶりを軽視するのは危険かもしれない。外めの枠にあって「ある程度のポジションで運」ぶことができるのか、多大な不安が漂うが。3着した当時は一枠2番であったわけで…。
八枠11番:スワーヴリチャード(牡5・デムーロミルコ・西)
庄野師=「前走後は着地検疫を兼ねてノーザンファームしがらきへ放牧。2週間ほどは疲れを見せたが、うまくケアしてくれたのでここを使えることに。力を出せる状態に持ってこられた。芝コースでサラッとやったが、グリップの利いたいい動きだった。前走は位置取りの差が出たが、最後は力を見せてくれた。海外のレースを経験したことで心身共に成長した感じがする。同世代のクラシックウィナーとの対戦になるが、大阪杯を勝った相性のいい阪神コースで好レースを期待したい。」
<のじ山の雑感>3月30日にドバイで走り、3着を掴み取って帰国。そこから3ヶ月弱で、なんとか「力を出せる状態に持ってこられた」のだから、「2週間ほど」「見せた」「疲れ」とやらは、余程のものであったのではないだろうか。「同世代のクラシックウィナー」とは、それぞれ、菊花賞馬である一枠1番のキセキと、ダービーを制した二枠2番のレイデオロ、そして皐月賞ウィナーの四枠4番アルアインのことだ。陣営は、本馬がダービーこそ0.1秒差の2着と大健闘したものの、皐月賞は6着、菊花賞に至っては出走すら叶わなかったということについて、幾ばくかのコンプレックスがあるのだろう。「心身ともに成長した感じ」の今、「相性のいい阪神コースで」大逆転といきたいようだ。決して完調とはいえない「力を出せる状態」に過ぎない程度で、果たして太刀打ちできるのだろうか。
八枠12番:リスグラシュー(牝5・レーンダミアン・西)
安藤助手=「先週までに負荷をかけていたので今週はオーバーワークを避け、前に馬を置いて折り合い重視の調整。追ってからの反応も良かった。当日の馬体重も460kg位になりそう。調整がうまくいったし、良い状態で出せる。メンバーが揃っているし内回りになるので、ゲートがカギになるね。何とか五分に出たい。勝負どころでスピードに乗るのが遅いが、12頭立てなら大外を回らされる心配がないはず。レースもしやすくなると思う。速い時計にも対応できるし、雨が降っても稍重までなら問題ないので、いいパフォーマンスを出せると思う。何とか好結果を期待したい。」
<のじ山の雑感>450kg後半から460kg前半あたりで好成績が記録されている本馬。前走は香港のG1に458kgで出走し3着であった。「460kgくらいになりそう」とは、海外遠征明けだが極めて順調、ということだろう。しかし残念ながら、「12頭立てなら大外を回らされる心配がないはず」という見立ては、そもそもが大外枠発走となっては脆くも崩れ去ろう。「ゲートがカギ」、「なんとか五分に出たい」と意気込むが、元々後ろから行く走法なのだから、横一線のまま1コーナーを大外回りするよりも、少し遅れて最後方の内側を走ったほうが良いのではとすら思える。「勝負どころでスピードに乗るのが遅い」、という少し面白い日本語から、いかに本馬が不器用であるかが透けて見えるが、大外枠から小回りのコーナー4つ、という不利な条件を巧みに立ち回れるのかどうか。
