東の都の大巨星、突然に輝く! 白石有美選手、初勝利!!


ついにこの時がやってきた。恐らくは数多くの舟券師たちが、そんな瞬間は訪れないであろうと半ば確信していた状況が、その思いを大きく裏切ってついに具現化した。デビュー以来、一度も1着入線することなく、海水淡水汽水問わず、数々のボートレース場を巡洋しては、専らシンガリで浮遊物を駆逐していた超ド級大型艦・連敗女王、白石有美選手(23歳/B2/118期/東京)が、五年前の初出走以来、通算492戦目にして、初めて誰よりも早くゴールラインを通過したのである。

舞台は、重さに優しいトリッキー江戸川!

2022年1月26日。ボートレース江戸川で絶賛開催中の一般戦、「江戸川ヴィーナスシリーズ・YES!高須クリニック杯」は四日目の予選最終日を迎えていた。現役最年少女子レーサーとしてデビューし、前女未踏の400戦全敗を達成、そのまま男子記録である505連敗に向けて、順調に敗戦を積み重ねて来た白石有選手はこの日、弱者の宿命よろしく第1Rに艇番を与えられ、その一走のみで業務終了、という非常に味気ない扱いを受けていた。彼女はそんな状況下にもめげず、と書けば美しいが、彼女が一切の発奮をすることなど無い57.6kgであることは、博徒ならずとも察しがつこうというものだ。相変わらず、節間に白石有選手の体は増量していくのである。

しかし、白石有選手に勝たせてあげたい、という地元東京支部と番組マンの熱意は確かに存在していて、予選二日目には一号艇を配したり、その翌日には予選特賞へねじ込んだりと、声なき応援、見えない意思は感じ取れるのだった。こういった地元の声援に、すかさず6着を二つ重ねて応えた白石有選手は、流石に491連敗という記録保持者、という風格さえ漂わせる魅力がある。清々しいまでの裏切りだ。

なんとしても勝たせるんだ! 何としても!

そして、実のところ三度目の正直、地元・東京支部総力を挙げての最後のお膳立て、というのが、本レースであった。

BOATRACEオフィシャルウェブサイトより。

最多で六名しか載せられないボートレースの出走表に、B2級が五名もいるのだった。唯一のB1級選手もボートレース勝率3.68という、低調の下の低調、下位オブ下位の面々が集められた一走である。いくら地元といえど、流石に二回も一号艇を白石有選手に回すわけにはいかないから、苦肉の策として、最も勝ちに近い筈の一号艇には同期の選手を配してあるのが、番組マンから白石有選手とファンに向けての大いなるメッセージなのであった。

しかし、今節の成績を見ていくと、白石有選手にとってはこのメンバーですら若干格上なのではないか、と思わせる説得力があるのが不思議である。成績的に見劣るのは一号艇の同期選手だけで、ゴンロクを並べた白石有選手を差し置いた他の四人は、4着入線の経験があり、五号艇の選手に至っては舟券に二回も絡んでいるのだった。

そういった要素もあって、オッズは割れに割れたものの、最終的に、最も勝ちから遠い筈のスタート位置となり易い六号艇アタマは当然としても、三号艇白石有選手アタマの舟券が全万舟となるに至った。四号艇、五号艇ともに1着をとっても数十倍台のオッズに落ち着く買い目があるのにも関わらず、それより内の白石有選手が筆頭となるとオール100倍以上というのは、未勝利連敗女王の座は伊達や酔狂ではないということの証であろう。なお、一番人気は順当にB1級選手がB2級を切り捨てると読んだ2-1-5であった。

BOATRACEオフィシャルウェブサイトより。

この状況下で、白石有選手が出した答えは……

さて、スタートである。一号艇の同期が譲ることは、多くの舟券師たちが想定していた範囲内であったが、そこで譲られる白石有選手が、微差とはいえどまさかのトップスタートを決めるのだから、ボートレースはわからない。

BOATRACEBBより。

と同時に、一号艇の同期選手は念には念を、とアクセルレバーを緩めたか、二号艇にあっさり捲られて、最初のターンマークへは二号艇が口火を切って突っ込んでいくこととなった。

BOATRACEBBより。1周目1マーク手前。

ターンマークを擦るように回るB1選手に対し、好スタートを活かしてピッタリ背後まで迫った白石有選手が、お決まりの差し構えを取る。ここで引き波に重心を揺さぶられ、どしんと後ろへ尻餅をついて失速するのがいつものルーティンだが、今回は摩訶不思議、下掲の通り、外へ流れた二号艇のすぐ内に、ガチっと差しの舳先が入ったのだからまた更に驚きだ。

三枚ともBOATRACEBBより。

こうして、向こう正面では捲ったB1二号艇と、差した未勝利三号艇の並走状態どなった。まさにデッドヒートの様相である。しかし、舟の重さが10kgも違うとなれば、バックストレッチの距離半分も残したところで、軽い二号艇が既に一艇身近く優勢となってしまう。白石有選手といえば、かつて最初のターンマークこそイの一番で折り返せたものの、次の2マークを安全運転しようとして失速し、無情な体当たりを喰らったりして連敗記録の更新に勤しんできた。ここでも2マークでの逆転負けが有り得るのでは、と本命党の舟券師たちは祈るような気持であったことだろう。

BOATRACEBBより。向こう正面の中間地点における全艇の位置関係。画面左で競り合う二艇だが、内側の赤服・白石有選手はやや劣勢なのが見て取れる。

運命の2マーク……

しかし、今日は違った。なんとしても勝たせたい、とレース場が、一号艇が、何より水面がそう思っていたのだろう。その気持ちに応えてか知らずか、白石有選手はB1選手より先んじてターンに入る。譲っての差し、安全運転一辺倒だった白石有選手が、握り旋回を放とうとしているのだ。

三枚ともBOATRACEBBより。1周目2マークの手前。内から張り出しながら旋回姿勢に入る白石有選手。先手を取られた二号艇のB1選手は、後れを取った為差し構えしかない。

結果は上掲の通り。流れ過ぎることなく見事な旋回を見せた白石有選手。流石に二号艇の差しは届かない。恐らくは、握ったようでやはり握れず、ややのったりと松太郎のごとく回ったことが舟の制御に好影響を与えたのではないかと思われる。

BOATRACEBBより。これから2周目に向かうところ。完全に抜け出した白石有選手。

あとは回れば回るほどに後続を引き離す危なげない走りっぷりで、見事、自身最初の勝利かつ118期最後の未勝利脱出を成し遂げた白石有選手。彼女の軌跡を追ってみると、「諦めなければ夢は必ずかなう」という絵空事、いわばマヤカシだが、その文言に対していよいよもって絶大な真実味が増してしまうから困ったものだ。

二枚ともBOATRACEBBより。最終周回を終え、一番乗りでゴールへと向かう白石有選手と、後続。
ゴール!!!

しかし、これだけ低調な面子に恵まれ、さらに一号艇同期選手の不意もしくは故意のアシストがあったとはいえ、白石有選手がしっかりとレバーとハンドルを握って勝ち切ったのは、紛れもない事実である。ここまで491回も負け続けながら、レーサーとして有り続けたその姿勢と精神力には、素直に恐れおののくべきものがあり、最終的にこの勝利をその手に掴んだことについては、多くの人々を脱帽させる価値がある。二勝目があるのか、あるとすればいつになるのか、もはや誰にもわからないが、少なくとも、505連敗の記録を達成することは、彼女にはもう無理だろう。ちょっと残念だが、とても目出度い大事変が冬の中川を見舞ったのだった。

好発進の後輩はどうなった??

ちなみに、白石有選手の後輩として、最年少女子レーサーの称号を引き継いだことのある生田波美音選手(19歳/B1/124期/東京)も今節に参加しており、初日から勝利を飾って以降三日目までオール舟券絡みの活躍を見せており、そのまま初優出への明るい未来が開かれていた。

ところが、白石有選手の活躍に感動したのか準優出への気合が入り過ぎてガチガチに筋肉が強張ったのか、この日の二回走りを共にスタートして最初のターンマークでしくじって6着、転覆、と全くいいところなく終了。特に二走目の転覆は紛うことなき選手責任で5点の減点、得点率ランキングは飛び降り自殺の勢いよろしく25位まで一気に転落し、一般戦回りが確実となってしまった。

東京支部の超若手コンビが揃って活躍するのはいつの日か。なかなか足並みが揃わないが、それこそが人生であり、しかし、何が起こるかわからないから、いつだって前向きに全力で、諦めずに生きていく必要があるのではとも思わせる一日であった。白石有選手の一勝には、人を諭す力すら宿ったか。


労働階級からの解放を志し、収入のアテもないのに突然脱サラ。後先考えないその姿勢に後悔しきり。

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